架空のアイドルを自動生成するGANs
(video:株式会社データグリッド/YouTube)
まずは上の動画を見てほしい。
これはアイドル画像のモーフィング動画ではない。なんと、AIによってアイドルの顔が自動生成されているのだ。これを開発したのは京都大学初のベンチャー、データグリッド。
次々と安定的に高解像度で架空のアイドルの顔が生成されていく「アイドル生成AI」を開発したという同社によると、この基幹技術は敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks = GAN / GANs)とのこと。
いったいGANsとはなにか、解説しよう。
ふたつのAIが「競い合う」ニューラルネットワーク
GANsは、カンタンに言うと「生成側」と「評価側」の2つに分かれたAIがそれぞれ競い合うことで高度なクリエイティビティを持つニューラルネットワークのことである。
言葉にすれば、やるべきことは単純だ。まず、アイドル動画を機械学習によって大量に流し込み、それらを合成して新たなアイドル画像を作り出す「生成側のAI」を作る。
続いて、同じく大量のアイドル動画によって学習した「評価側のAI」を作る。そして、それらを相互に競合させるというわけである。
生成側のAIは評価側のAIから高く評価されるように生成アルゴリズムを自己学習で修正していき、評価側のAIは生成側のAIにケチをつけるよう、やはり評価アルゴリズムを自己学習で調整し続ける。
つまりこれ、人間がクリエイティビティを高めていく「弟子と師匠」または「同門のライバル」の関係に極めて近いのである。
クリエイティビティがAIに奪われる日は来るか
私はいま、広告その他のクリエイティブを作る仕事をしている。この記事を書いているのも、そういった仕事の一環でありライターとしてプロでもある。
この業界の人々にはまだ「自分たちの仕事はAIに奪われないだろう」と考える人が少なくない。AIに奪われるのはルーチンワークや数学的な根拠に基づいた仕事だというのである。
iedgeの読者にはおなじみの言葉だろうが、「シンギュラリティ(人工知能が発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念)」を現実のものとして認識できていないのかもしれない。または、認識はしているものの「クリエイティビティ」は聖域と考えている可能性も高い。
しかし今回の「アイドル画像自動生成AI」は、クリエイティビティが人間の聖域ではないことをはっきりと示している。先ほども書いたように、GANsの仕組みは人間がクリエイティビティを高めていく過程に極めて近い。
つまり、私達がなにか「クリエイティブなこと」をしているという状態もある種のアルゴリズムによって支配されているということだ。
人間の聖域にAIを立ち入らせるか?
いま我々の身近にあるAIは、人間にはあまりに退屈な作業を代替している。たとえばAIスピーカーに「テレビ消して」というのは分かりやすい例で、こんな作業は人間に頼むと「自分でやれば?」と言われてしまうだろう。
それだけに、家庭にAIが入り込んでそういった雑務をこなしてくれることには価値があるわけだが、こと「クリエイティブな」作業にAIが進出してくるとなれば警戒感を顕にする人も多いだろう。
日本でも「大喜利」をするAIの開発が行われていて「笑い」というクリエイティビティについてはアルゴリズム解析が日々進んでいる。
また、AIに小説を書かせるという試みは多く、「ハリー・ポッター」の新作をAIが書いたというニュースを覚えている方も多いのではないだろうか(その出来はひどいものだったようだが)。
レイ・カーツワイルが提唱した「シンギュラリティ」は2045年に訪れると試算されている。今から27年後、決して遠い未来ではない。
27年は人間が十分に成熟するには不十分な時間であるがAIが人間を超えるには十分な時間ということである。
それはGANsの事例を見れば明らかだ。
生成側と評価側、人間に置き換えれば弟子と師匠、または同門のライバルは、24時間365日、休まずに切磋琢磨することはできない。夜になれば眠るし、食事もすれば、排泄もする。
しかし、AIであれば時間的な制約がないばかりか、その速度も人間とは比較にならないほど高速だ。今はこうして文章を書いたり、広告のクリエイティブ管理をすることで食いつないでいる私も、きっとAIに仕事を奪われるだろう。
しかし、そこで重要なのは「奪われた」のか「代わってもらった」のか、という考え方かもしれない。「代わってもらった」と考えることができれば、人生は余暇に満ちた素晴らしいものに見えるはずだ。
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