iedge
  • iedge
スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.01.09
2019.12.25

IoTを支えるLPWAは何が革命なのか?(前編)

記事ライター:Yuta Tsukaoka

低電力・広範囲のLPWA

低電力のバッテリーの写真

まず、LPWAという言葉について説明しよう。これは、BluetoothやZigbeeというような単一規格の名称ではなく、「Low Power Wide Aria」の略で、「低電力・広範囲」の通信規格全体を指す一般名称だ。

私たちに馴染みのあるLTEや3Gなどの携帯電話回線は、広範囲ではあるが低電力ではないのでLPWAとは呼ばない。

また、BLE(Bluetooth Low Energy)やZigbeeは低電力ではあるが、せいぜいが数十メートルの範囲でしか通信できないので、これもまた、LPWAとは呼ばない。
Wi-Fiは高電力な上に通信範囲も狭いのでコンセプトとしては真逆に位置する。

LPWAと呼ぶための厳格な基準があるわけではないのだが、「電池だけで数年〜十数年稼働し、伝送距離が数十キロ以上」のものをこう呼んでいる。この基準に照らせば、携帯電話回線やBluetooth LE、ZigbeeがLPWAの仲間に入っていないのが分かるだろう。

低電力で広範囲。この基準をクリアするためには捨てなければならないものがある。速度である。

LPWAと呼べる仕様と高速通信を両立させれば世界を席巻するだろうが、今のところその目処も立っていなければ予定もない。個別の規格によってさまざまだが、通信速度はせいぜい100kbps〜500kbps程度。いま私たちが普通に使ってるLTE回線の数百分の1という超低速度である。

いくら電池持ちがいいと言ってもその速度じゃ…と思う読者もいるだろう。そう、携帯電話を運用するにはあまりに遅すぎる。ADSL時代に後戻りだ。しかし、IoTを運用するには必要十分な速度なのである。

LPWAと産業用IoT

工場内で稼働するIotのイメージ画像

IoTと言うと ――特にこのiedgeの中では「ホームIoT」を指す。住宅内でWi-FiやBluetooth、Zigbeeを使って通信し、照明や家電を操作するものだ。しかし、実はIoTというコンセプトの恩恵をもっとも大きく受けているのは産業界である。

数百メートルに及ぶベルトコンベアを持つような巨大工場には、そのベルトコンベア上で作業をする機械が数十、数百とある。かつては、それらひとつひとつを作業終了後にチェックしていた。そうでなければ、稼働中にトラブルが起きていちいち対処することになる。

しかし、IoTを導入することで機械の不調を工場全体で自動監視することが可能になった。規定を外れた動作をしている機械、わずかな不規則振動などをセンサーによって感知し、IoTネットワークを通じて管理者に知らせることができる。これによって生産性は飛躍的に向上し、工場に配置する人員も少なくて済む。

しかし、初期には問題もあった。たとえばWi-Fiは同時接続数が限られている(仕様上は32接続まで)し、BluetoothやZigbeeでは通信範囲が狭すぎて工場全体の監視に向かない。それを解決するために3Gや2Gといった携帯電話回線が採用された時代もあったが、1回線あたり月額100円ほどかかるため、工場全体では月額で数十万円〜数百万円のコスト増になってしまう。

 次ページ >
そこで、LPWAだ。

工場内で膨大な量の通信がなされている様子

そこで、LPWAだ。

携帯電話回線と同じように基地局通信をするので数十キロの伝送距離があり、どんなに大きな工場でも対応可能である。また、コストの問題も解決している。LPWAの代表的な規格「Sigfox(シグフォックス)」は年額で100円という超低コストだ。携帯電話回線と比べて、単純計算で12倍のコスト削減となる。

さらに、既存の工場にセンサー単体を「あとづけ」してIoT化を図ろうという場面では、低電力というメリットも活きてくる。電力供給なしに数年は稼働するため、電池組み込み型のセンサーが多く開発されているのだ。

一方、デメリットと捉えられがちな速度の問題も、実は問題にならない。産業用に限らずIoTの通信は非常に小さなデータだからだ。先ほどLPWAの代表的な規格として名前を出したSigfoxは、1通信あたり12バイト(半角12文字分)しかないが、これで十分なのである。つまり、どんな低速度回線でもほとんど問題にならない。

「IoTが次の産業革命をもたらす」というようなことを言うアナリストや経営者を見たことがあるだろう。ホームIoTのことだけを考えているとちょっと大げさに思えるが、実際、産業界の生産性を大きく改善するという意味で、これは革命なのである。

各規格の特徴と生活にもたらされる変化については後編で

LPWAが産業用IoTにどのような革命を起こしているのかを解説したところで前編がいっぱいになってしまった。低電力・広範囲。その代わりに低速度のLPWAがこれだけ産業界に革命を起こしているということは、もちろん私たちの生活にも変化がある。

後編では、代表的な規格をいくつか紹介しつつ、実生活がどう変わるのかを解説する。

<このライターの記事をもっと読む>
自宅IoTのまとめ役には、やっぱり「ロボット」が必要なのではないだろうか?
2020年に本格運用開始予定!第5世代通信システム「5G」とIoTの関係とは?

関連記事

Roborock S8 Pro Ultraにロボット掃除機の未来を見た

ロボット掃除機を買い替えた  2023年10月、コロナ禍で少しだけ流行った地方移住ブームに乗り切れなかった私は、今更になって都内から地方都市への移住を果たした。東京都の地区40年-14平米ワンルームマ ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.12.04

着実な広がりを見せるスマートホーム市場〜最新の動向についてアクセルラボが発表〜

 スマートホームサービス「SpaceCore」(スペース・コア)などを手がけるアクセルラボが、消費者と不動産事業者を対象に「スマートホームに関する調査報告会」を行った。  同調査は、全国の18~69歳 ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.09.05

トラックボールとは?知れば知るほど根強い愛用者がいる理由がわかる!

パソコンでカーソルを操作するデバイスは、マウスだけではありません。トラックボールというデバイスがあります。多くの人が使っているわけではありませんが、根強いファンがいます。人によっては、トラックボールが ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.08.24

Qrio Smart Lockなら、鍵をシェアすることができて、スマホで解錠できる!

Qrio Smart Lockなら、まるで鍵を開けるかのようにスマホを操作するだけ Qrio Smart Lockは、スマートロックサービスです。 鍵をドアに設置する際の工事も不要です。鍵につけさえす ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.11.28

これからのスマートホームには欠かせないAIについて知っておこう!

そもそもAIって何? AI(Artificial Intelligence=人口知能)は、人間が行う様々な作業や活動をコンピューターなどで模倣し、人間と同じような知能の実現を目的としたソフトウェアおよ ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.11.28

人の感情に共感する次世代のAIロボット「JIBO」とは?

多くの可能性を秘めた新型AIロボット「JIBO」 JIBOは、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)のシンシア・ブリジール准教授により開発されました。 その後、2014年にIndiegogoのク ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.12.03

Copyright© iedge , 2024 AllRights Reserved.