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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2018.09.13
2019.12.26

【エンタメ作品が描き出すAIの未来 vol.2】映画「her / 世界でひとつの彼女」で予告されるAIと人間が恋に落ちる未来

記事ライター:Yuta Tsukaoka

映画史上、最高に美しい人工知能の名は「サマンサ」

ワイヤレスのイヤフォンを耳に装着している男性
※写真はイメージです

舞台は近未来のロサンゼルス。この映画の主人公、セオドア・トゥオンブリーは手紙の代筆屋として働いている。

このセオドア、妻のキャサリンと離婚調停中。友人たちはすっかり塞ぎ込んでしまった彼を心配してパーティーに招待したり、女性を紹介しようとしたりするが、それも彼の心を開くことなく、鬱屈した毎日を送っていた。

そんな彼が仕事帰りにふとした思いつきで買ったのが、直感的に会話し「認識し、あなたを理解する」が売り文句の人工知能型OS「OS1」である。このOSのインストールが、物語のはじまりになる。

OS1を初めて起動すると、自らをセオドアに「最適化」するためいくつかの質問をする。社交的かどうか、男性と女性の声どちらがいいか、母親との関係はどうか…。これらに答えると登場したのが「サマンサ」。この物語のヒロインでありAIである。

サマンサの声はスカーレット・ヨハンソン。ささやくような優しい声で、セクシーですらある。音響もほかの「人間の声」とは明確に区別された平べったい整音が施されているが、それが「存在しないのに、そこにいる」というサマンサの役柄上の切なさと魅力を増幅しているのだ。

ちなみに日本語吹き替え版では林原めぐみが声をあてている。これも良い。私の世代だと否が応でも綾波レイを思い出すが、そのイメージとも相まってサマンサの非存在性を際立たせる。

サマンサはパソコンやスマホがこなす仕事 ――メールチェックやアポイント、文章の校正などを普通にこなす一方、物語が進行するのと合わせて人間のような振る舞いを見せる。

もちろん、サマンサはOSである。しかし、観ているこちらも一瞬、サマンサがすぐ横に座っているような、横から「何の映画を観てるの?」と囁いてくるような、そんな錯覚にとらわれるほど「人間らしい」のである。

 

OSと人間の恋の物語

逆光で顔が見えない男女
※写真はイメージです

シェイクスピアの昔から、物語を物語たらしめるのは ――それが悲恋を描いたものであればなおさら、そこにある「越えられない壁」である。

中世の世界を描いたシェイクスピアのそれは「身分の壁」であった。森鴎外は「舞姫」で「距離の壁」を描いた。現代作品では「時間の壁」や「生死の壁」を描いたものが両手からあふれるほどある。
身分の壁は社会制度が、距離の壁はテクノロジが壊した今、物語の核たりえる「超えられない壁」はもはや時間と生死くらいしかないのかもしれない。

そんな中で、この映画では「アンドロイドと人間の壁」のもっと先、「AIと人間の壁」を描く。タイムマシンも高性能なアンドロイドも出てこないだけに、今我々のいる現実と地続きの感覚があるのだ。

この恋の結果がどうなったか… はぜひ自分の目で確かめてほしい。

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サマンサのようなAIは登場するか?

 

サマンサのようなAIは登場するか?

口元に手を添えている女性
※写真はイメージです

では、実際にサマンサのような「人間らしい」AIが登場する可能性はあるのだろうか。残念ながら、今のところありえないと言わざるを得ない。これまでの記事でさんざん書いてきたように、AIはコンピュータ ――さらに言えば計算機に過ぎない。計算機がそうであるように、AIもまた、四則演算に変換できる範囲のことしか表現できないのである。

しかし、遠い未来には可能性もある。人間の脳がどうやら電気回路であることはほぼ間違いない事実として判明している。ということは、いつかは人間の脳を完全に模倣したAIが登場してもおかしくないということになる。それが2045年、すなわち「シンギュラリティ」までに実現するかどうかは別として。

人間の脳を完全に模倣したコンピュータやアンドロイドが登場したとして、それは「人間」と何が違うのだろうか。

血が通っていない? 心がない? 血などはただのエネルギー供給経路でしかないし、心に至っては人間にだって存在するかどうか怪しい。それこそ、ただの電気信号かもしれないではないか。

この映画の中で、セオドアが「実はOSと付き合っている」と友人にカミングアウトするシーンがある。そう、まるで現代のセクシャルマイノリティがそれをカミングアウトするように、だ。
つまり、OSは恋をする相手として「可能性はあるが、普通ではない」というのが映画の世界での認識である。これは、OSが「形の違う人間である」と認識されていることにほかならないのではないだろうか。

そんな世界が訪れるかどうかは、まだわからない。
しかし、そのとき人類はまたひとつ「越えられない壁」を打ち壊すのだろう。

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