「ZigBee」という言葉を耳にしたことのある方はまだ少ないと思いますが、実は新たな無線通信規格として注目を集めています。近い将来やってくるIoTの世界において、ZigBeeは重要な役割を果たす存在となります。
Zigbeeとはどのような特徴をもった無線通信規格なのか、従来のBluetoothとの違いや活用事例なども併せて詳しく紹介していきます。
今回の記事を最後まで読んでいただくことで、ZigBeeの基礎や今後どのような場面で必要とされる技術なのかがお分かりいただけるはずです。
▼この記事でわかる!
- 「ZigBee」はWiFiなどと何が違うか
- 「ZigBee」の優れた点を数値で説明
- 「ZigBee」の今後の課題は混線
ZigBeeとは?
ZigBeeとは無線通信規格のひとつで、さまざまなセンサーやデバイスに利用されます。ZigBeeの名前はミツバチに由来しており、ノード同士でのネットワークを構成する様からその名前が付けられました。
無線通信規格といえばWiFiやBluetoothなどをイメージする方も多いと思いますが、これらに比べて圧倒的に省電力であることがZigBeeの特徴。乾電池だけで1年や2年といった単位での稼働ができます。
また、通信速度は250kbpsと低速であるものの、接続可能なノード数は65535と圧倒的に多いことも大きな特徴。スリープ状態からの回復やネットワークとの接続も1秒未満で実行できます。
このような特徴から、IoTなどの次世代技術を担う存在としてZigBeeは期待されています。
▼ZigBeeの特徴
通信速度 |
250kbps |
省電力 |
ボタン電池:約1年 単三電池:約2年 |
スリープ状態からの復帰 |
約15ミリ秒 |
ネットワーク接続 |
約30ミリ秒 |
接続ノード数 |
65535 |
ZigBeeの仕組み
ZigBeeは基本的にデバイスやセンサー同士での通信に利用されます。IoTのようなセンサー機器の多くは1対1での通信ではなく、複数のポイントが相互に通信するといったケースが多いためです。まさにこれはZigBeeの根本的な仕組みといえます。
たとえば、モーションキャプチャを行う際には体じゅうに多くのセンサーを装着します。また、部屋の中で複数のデバイスを音声コントロールする場合も、それぞれにセンサーを取り付けなければなりません。
このように、従来のWiFiやBluetoothのような使い方ではなく、同時に多数のデバイスやセンサー利用するために最適な技術がZigBeeであるといえるでしょう。
ZigBeeのネットワーク構造
ZigBeeのネットワークは「コーディネーター」「ルータ」「エンドデバイス」の3つの構成から成っており、それぞれ役割が違います。
1.コーディネーター
コーディネーターはネットワーク内にひとつだけ存在するものです。その名の通りネットワークを統括して調整する役割を果たしています。そのため、コーディネーターはスリープ機能がなく、常時動作している必要があります。
2.ルータ
IPネットワークにおけるルータの役割と似ていますが、ポイント間においてデータの中継局のような役割を果たすものです。何らかのアクシデントが発生して通信経路が絶たれた場合でも、複数のルータがあることによって通信不能状態を避けることができます。
コーディネーターと同様、ルータにもスリープ機能はなく常時動作している必要があります。
3.エンドデバイス
その名の通りセンサーやデバイスなど、エンドに設置して通信を行う役割を果たすものです。3つの中で唯一、スリープ機能を有しています。ちなみに、ZigBeeはエンドデバイス同士での通信も可能ですが、エンドデバイスが直接的に通信を行うことはできません。必ず一旦ルータを介したうえでエンドデバイス間での通信を実現しています。
また、ZigBeeはメッシュネットワークを採用していることと、上記のようなネットワーク構成であることから、エンドデバイス間にルータがあることで従来のネットワークに比べて広域の通信も可能になります。
次ページ >
ZigBeeとIoTは何故相性が良い?
ZigBeeとIoTの関係
ZigBeeと相性の良いものとしてIoTが挙げられることが多いですが、両者はどのような関係にあるのでしょうか。結論を言えば、ZigBeeはIoTのサービスを構築する際に有効なネットワーク技術のひとつであるということです。
それでは、なぜそれほどまでに両者は相性が良いのでしょうか。ZigBeeの特徴とIoTという仕組みを見てみるとその理由が見えてきます。
1.省電力
そもそもIoTとは、あらゆるモノがインターネットにつながるという仕組みのことを指します。インターネットで収集したデータはクラウドにアップロードされ、ビッグデータとしてさまざまな用途に活用できるようになります。
しかし、あらゆるデバイスからデータを収集するということは、データを収集するセンサーはできるだけ省電力のものが求められます。電池だけで1年や2年といった単位での稼働が可能なZigBeeは、まさにIoTに最適なネットワーク規格といえるでしょう。
2.通信速度
ネットワークに求められる通信速度は、どのようなデータをやり取りするのかによっても変わってきます。私たちが普段から利用しているSNSや動画などは、LTEやWiFiといった高速回線でなければ楽しむことができません。
しかし、IoTにおいてデバイスが通信を行うデータの多くは、センサーによって取得されたデータが中心です。そのため、動画やSNSなどのように高速な通信回線は必要とされません。ZigBeeの通信速度は250kbpsであるため、IoTにおいての通信速度としては必要十分であるといえるでしょう。
3.接続ノード数
ZigBeeの接続ノード数は65535という圧倒的な数を誇ります。たとえばオフィスビルの温度や湿度を管理するIoTシステムを構築する場合、通常のWiFiやBluetoothをIoTセンサーに活用しようとすると、アクセスポイントなども多数必要になります。
しかし、ZigBeeであればもともと65535までのノードに対応しているため、フロアごとにアクセスポイントを設置する必要もなく、低コストで導入することができます。
IoTのほとんどは多数のセンサーから情報やデータを受け取るということを前提としているケースが多いため、接続ノード数が多いということはIoTとの相性も抜群に良いといえます。
4.スリープからの復帰
最後に挙げるのがスリープからの復帰時間です。ZigBeeのエンドデバイスにはスリープ機能が付いていますが、15ミリ秒という短時間でスリープから復帰が可能です。IoTに接続するセンサーの中には、利用頻度が低いデバイスもあるものです。そのような場合でも、スリープから短時間で復帰できるということはIoTの管理においても手間がかからず高い利便性を実現できます。
ZigBeeをセンサーと接続するには
ZigBeeをIoTセンサーと接続して実際に利用するには、親機と子機のモジュールを用意する必要があります。親機はPCに接続してさまざまな設定を行いますが、大まかな流れを以下にまとめてみます。
1.ネットワーク参加設定
Bluetoothのペアリングのような設定です。ZigBeeのネットワーク内に参加するデバイス(子機)を指定する作業ですが、モジュールによって設定方法も違います。ほとんどは電源を入れてペアリングが完了しますが、なかにはボタンやスイッチを押下するものもあります。
2.ネットワーク参加設定の確認
デバイスが正常にペアリングされたかを確認する作業です。ネットワーク参加状況を確認するためのLEDランプがあり、それが一定時間点灯します。
3.PC側のターミナル設定からネットワーク参加状況を確認
PC側でターミナル設定画面を開き、ペアリングしたデバイスが全て表示されているかを確認します。ターミナル設定はZigBeeのモジュール製品によっても違います。多くの場合は提供しているメーカーのホームページから無償でダウンロードが可能です。
4.通信のテスト
複数の子機モジュールがペアリングされたら、それぞれの子機同士で通信が可能であるかテストしてみましょう。子機Aから特定の文字列を子機Bに送信し、子機Bのターミナル画面に正常に表示されたら通信テストは完了です。
これでモジュール同士が正常にネットワークに接続されました。あとはモジュールでの通信において利用するコマンドリストを参照しながら、お好みでプログラムを試してみましょう。
ZigBeeとBluetoothの違い
同じ無線規格として比較されやすいのがZigBeeとBluetoothです。それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。
|
Zigbee |
Bluetooth |
消費電力 |
小 |
小〜中 |
通信可能範囲 |
100m |
10m |
通信速度 |
250kbps |
24Mbps |
暗号化 |
AES |
EO,AES |
接続可能ノード数 |
65535 |
7 |
上記の表のように、ZigBeeはBluetoothに比べて通信速度は遅いものの、通信可能範囲や消費電力、ノード数において多くのメリットがあることがわかります。
ちなみに、2017年に発表されたBluetoothの新たな技術である「Bluetooth Mesh」は、数千台のノードを接続することが可能になります。
ZigBeeの活用事例
ZigBeeの技術を利用した活用事例をいくつか紹介しましょう。
1.テーマパークでの移動把握
多数の来場者が集まるテーマパーク内において、どのエリアにどの程度の客が集まっているかを把握するために実験が行われた例があります。広大なテーマパーク内に複数の中継局としてのルータを設置し、人の流れを逐一確認できるようにしました。
あくまでも実験段階ではありますが、万が一災害やテロが起こった場合でもスムーズに避難が可能になるような体制作りに役立てることができます。
2.地震発生時の構造物確認
ビルの各フロアにZigBeeのセンサーを取り付け、地震発生時にセンサーが検知し構造物の破損状況をデータとして集めるシステムです。また、各階での揺れの違いなども判別することが可能。通常時はセンサーを起動せず、地震発生時にのみ稼働させられることもZigBeeならではのメリットといえます。
3.リモコン
一般的なリモコンの多くは赤外線によって通信を行いますが、リモコンとデバイスの間に障害物や遮蔽物があると電波が遮られてしまい操作することができません。
そこでZigBeeをリモコンに活用することによって、電波の届きづらい場所であってもリモコンによる操作が可能となります。たとえば、寝室からリビングのエアコンを操作することによって、冬の寒い朝も快適な空調を実現できるといったメリットがあります。
ZigBeeの課題
新たな無線通信規格として注目されているZigBeeですが、クリアしなければならない課題もあります。それが無線同士の混線です。ZigBeeは2.4GHz帯とよばれる周波数帯を使用しますが、これはWiFiでも使用されている規格です。
そのため、WiFiがZigBeeの通信に影響して正常な通信ができなくなったり、逆にWiFiの通信速度に影響を与えるといったことも今後の課題として挙げられています。