いきなりだが、ひとつクイズを出そう。
この二枚の写真を見て、合っていると思う選択肢を選んでほしい。
A 男性だけが実在する人物である
B 女性だけが実在する人物である
C どちらも実在する人物ではない
D どちらも実在する人物である
正解はあとで。
AIが作り出す現実と非現実
以前に私が書いた「バーチャルアイドル」の記事でも触れたように、AIは機械学習と強化学習、場合によってはGANsを組み合わせて、ものすごいスピードで学習することができる。
詳しい説明は専門家に譲るが、いまや人間の顔をAIが生成できる時代になっている。それも、私たちにはほとんど見分けられないほどの精度で。
これによって何が起こるのかといえば、まずはDeep fakeに代表される「虚偽情報の生産」が取り沙汰されることが多い。
実際、その驚異は計り知れない。以下の動画を見てもらうと、その恐ろしさがわかるだろう。
どうだろう。左上にいる男性の動きが右にあるトランプ大統領の動きと連動している。
「トランプ大統領の顔」を学習したAIが、左上の男性の表情に合わせて「ニセのトランプ大統領」をリアルタイムで生成しているのだ。
想像してみてほしい。「この」トランプ大統領が北朝鮮に宣戦布告する動画がネットに流れたら?
ホワイトハウスがすぐにそれを否定するだろうが、大きな混乱が巻き起こることは想像に難くない。
このように、AIはすでに「人間の顔」という強力なツールを使うことで、非現実によって現実を動かす力を得ている。
「誰か」を真似するのではなく「誰でもない誰か」を生み出す
ここからさらに一歩進んだところにあるのが、記事の最初で紹介したクイズだ。
もう一度、画像を見てもらおう。
クイズの内容はこうだった。
A 男性だけが実在する人物である
B 女性だけが実在する人物である
C どちらも実在する人物ではない
D どちらも実在する人物である
正解は、C。どちらの人物も存在していない。
「人間の顔」の特徴を学習したAIが自動生成した写真である。
見破れなかった人も多いだろう。あまりに自然だからだ。
この画像は、HUMANorAI.net(別サイトへ移動します)というウェブサイトから拝借したものである。
このサイトでは、NVIDIAが提供するデータセットを利用してGANsネットワークで生成された「実在しない人間の顔写真」と「実在する人物の顔写真」を見分けるためのテストをすることができる。
アメリカの田舎で老後を楽しんでいそうな男性も、最高に楽しいパーティーでスナップフォトを撮られたような女性も、この世には存在していない。
見分け方にはコツがある。たとえば、次の写真は左の女性が「AIによって生成された顔写真」である。
背景が奇妙にゆがんでいるのが分かるだろう。
続いて、次の画像では、左の女の子がやはりAIによって生成された顔写真だ。
向かって右側の輪郭付近が不自然なのがわかるだろうか。左耳と服の襟の形状が不自然だ。
続いてはこちら。これは両方ともAIが生成した顔写真である。
右の男性は右頬に不自然な膨らみがあるのでわかりやすい。
左の女性は一見、実在の人間のようだが皮膚の質感が不自然だ。
このように、コツを掴めば70%程度は正解できる。しかし、100%の正答率を出すのは難しい。
実在の人物かどうかがわからない世界で、何が起こるか?
記事の初めに書いたように、AIの学習スピードは人間の比ではない。いま紹介した「コツ」が無効になる日も遠くないだろう。
そのとき、私たちの生活には何が起こるだろうか。
存在しない人物の政府公認IDを作って不正な輸出入などを犯す犯罪者が出てくるだろう。
詐欺サイトにより高い信憑性を持たせるために使われることもあるかもしれない。
そして何より、あなたが「友達」だと思っていたネット上のあの人が、実は存在しないかもしれない。
そういう世界に、私たちは突入しようとしているのだ。
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