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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2018.11.19
2019.12.17

AIは芸術家になるか? GANsネットワークとオートマティスム

記事ライター:Yuta Tsukaoka

ここ数ヶ月で目立ってきた、AIによる「芸術作品」

CHRISTIE AIの描いた肖像画「Edmond de Belamy, from La Famille de Belamy」

ZDNet IBM Watsonの描いた「AIを象徴する絵」

画像引用元(上): CHRISTIE AIの描いた肖像画「Edmond de Belamy, from La Famille de Belamy」
https://www.christies.com/features/A-collaboration-between-two-artists-one-human-one-a-machine-9332-1.aspx

(下):ZDNet IBM Watsonの描いた「AIを象徴する絵」
https://www.zdnet.com/article/this-is-what-ai-looks-like-as-sketched-by-ai/

AIが人間の仕事を奪う、という言説はもはや聞き飽きたという読者もいるだろう。一方で、AIには人間の仕事を奪うことはできない、というのもまた、同じくらいよく言われている。

前者の理屈は、AI=人工知能はいつか人間の脳を完全にトレースするので否応なくリプレイスされるであろうという夢見がちなものから、定型作業に徹する仕事はAIのほうが向いているので経営判断として個別にリプレイスが進み、結果として多くの人が職を失う、という現実路線のものまでバリエーションが多い。

一方で、AIは人間の仕事を奪うことができないと信じる人々の理屈は、「AIには人間のような柔軟な発想をできないから」という1点に集中している。事実として、いまのコンピュータ技術では不可能ではある。

しかし、逆に言えば技術さえ整ってしまえばこの理屈は破綻する。あらゆる技術開発は不可能を可能へと変えていく方向に進むので、いつかは必ず実現してしまうだろう。それが、レイ・カーツワイルの予言した「2045年」であるかどうかは、別の話だが。

そんな中、多くの人が「人間の聖域」と考えている芸術分野でAIが活躍しているニュースがこの1週間で立て続けに発表された。

ひとつは、ニューヨークの有名オークションハウス「クリスティーズ」でAIの描いた肖像画が予測の40倍以上を上回る43万2,500ドル(約4,900万円)で落札されたというもの。

そしてもう一つは、IBMのWatsonが「AIを象徴する絵」を描いたというものである。

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芸術作品を生み出すアルゴリズム

 

芸術作品を生み出すアルゴリズム

アルゴリズムを模した作成過程の図式

この2つのニュースはともに、敵対的生成ネットワーク(GANs)というアルゴリズムが裏にある。
私が以前、iedgeで執筆した「クリエイティビティは人間の聖域か? ―AIが生み出したジャパニーズアイドルたち」でもGANsについては触れているが、今回の記事ではもう少し掘り下げてみたいと思う。

なお、ここから1,000文字ほど、やや専門性の高い話になる。アルゴリズムの話には興味がない場合はここを読み飛ばして次の見出しへワープしても記事の価値は失われないので、さっとスクロールしてほしい。

さて。GANsの基本的な考え方は、生成側と評価側のAIが競い合ってゼロサムゲームを繰り広げることで、生成物のクオリティを上げていくというところにある。
意味のわからない言葉が続いて不安かもしれないが、大丈夫。このあと解説するための伏線なのでまずは飲み込んでほしい。

大前提として、AIを育成する方法が「教師あり学習」と「教師なし学習」に大きく分けられることを知っておいてもらいたい。画像認識を例にとって2つの違いを解説しよう。

猫の写真
AIに「猫」を識別させたいとき「教師あり学習」では膨大な写真をデータとして用意して「これは猫」「これは猫じゃない」と一つずつ正解を教えていくことで、猫の「特徴点」――すなわち、耳が尖っているとか、全体として丸みを帯びているとか、4つの足があるとか、色は個別に違うとか、そういった「猫を象徴する特徴」をAIが理解していくことで猫を識別する能力を獲得する。

あなたのスマートフォンに入っている写真アプリ(AndroidならGoogleフォト、iOSなら写真)で「猫」と検索すると猫の写っている写真をピックアップしてくれるのはこの「教師あり学習」の成果である。

もう一方の「教師なし学習」の代表例が、今回取り上げているGANsネットワークである。「教師あり学習」における教師は人間のことだが、教師なし学習では人間の力を(ほとんど)借りずにAIが自己成長するのが特徴だ。

GANsネットワークは、ふたつのAIで構成される。それがさっきの「生成側(generator)」と「評価側(discriminator)」である。

まず、生成側に猫の写真(=実物サンプル)を複数枚与えて、それらを真似した偽物を生成させる。評価側には本物なのか偽物なのかを伏せてどちらかを提出して評価させ、その正誤によって双方がアルゴリズムの自己修正を繰り返すというものだ。

生成側は「偽物を本物と誤答させるように」、評価側は「誤答がなくなるように」とアルゴリズムを自動修正しつづけるので、最終的には生成側の提出する偽物と本物の差がほぼなくなり、評価側の正誤率も「5:5」へと近づいていく。ゼロサムゲームである。

おわかりいただけただろうか?

このアルゴリズムを利用すると「教師あり学習」よりもずっと早く、しかもサンプル数もずっと少なく学習を完了させることができる。何より人間の「教師」が不要なのでAI育成のためのコストが大きく削減できることが期待されているのだ。

 

GANsネットワークは真の芸術を生み出すだろうか

机の上に使いかけの画材が並べられた様子

さて、話を芸術作品に戻そう。

冒頭で紹介したニュースのうち、肖像画のほうは世界中の肖像画を「実物サンプル」としてGANsネットワークに学習させることで生成したもので、Watsonの描いた「AIを象徴する絵」はニューヨーク・タイムズのテキストを読ませて「AI」を象徴する中核的イメージを生成している。どちらも教師なし学習、つまりAIが「自ら」描いたという点が大きくニュースになっているわけだ。

これはまさしく、現代芸術におけるオートマティスム ――人間が手を動かす古典的な作品制作過程に対するアンチテーゼとして作品制作を「自動化」する流れの上にある。

たとえば、インクをぶちまけた(だけに見える)ジャクソン・ポロックの作品を見たことがあるだろう。あれは「絵を描く」という過程に偶然性を取り込んで画家の介入を最小限に抑えたオートマティスムの代表作と言っていい。

その点では、冒頭で取り上げた2作品はどちらも「芸術作品」だ。一方で ――ジャクソン・ポロックの絵を「世界一高価な落書き」としか見ない人達がいるように、これを芸術とは言えないと考える人もいるだろう。

結局のところ、GANsネットワークは絵画に新たな手法をひとつ与えただけで、AIが芸術性を獲得したとはまだ言えないと私は考えている。なぜなら「AIに絵を描かせてみよう」という発想 ――まさにそれ自体が「芸術」だからである。

AIと芸術という、離れた2つの点をつなぐ発想の飛躍こそが、人間の人間たる所以なのかもしれない。

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