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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2018.10.16
2019.12.26

AI塾講師「アタマ先生」から見る、AIと人間が共存する働きかた

記事ライター:Yuta Tsukaoka

日本発の「塾講師AI」が登場

黒板の隣に立つ、ロボットを模した人形

家庭にアンドロイドが普及している設定のSFにおいて、アンドロイドの役割は家事手伝いと家庭教師ということが多い。それは、AIを搭載したアンドロイドが「人間よりも頭がいい」というイメージがあるからだろう。

実際、特定の分野では非常に高い成果を出している。たとえば、チェスや将棋はもうコンピュータ(AI)のほうが強いし、「東ロボくんプロジェクト」ではセンター試験において英語や歴史のような暗記科目は好成績を収めているそうだ。

一方で、これまでの記事でもさんざん書いてきたように「常識的に考える」というような課題にはめっぽう弱い。

たとえば、「毛の生えた目のかわいいクマのぬいぐるみ」という文章があったとき、人間は「毛の生えた、目のかわいいクマのぬいぐるみ」と無意識に句点を補足して理解するが、AIはそのままの文章を読み取ろうとするので「毛の生えた目の、かわいいクマのぬいぐるみ」と不気味極まりない誤読をする可能性がある。

とはいえ、AIが目から毛の生えたクマを本気でかわいいと思っているわけではない。「常識」と我々が認識しているフレームワークが言語化できていないために、AIに与える学習データを作ることができないから、理解できないだけだ。

「目から毛の生えたぬいぐるみなどこの世に存在しない(だろう)し、存在したとしてもかわいくない(だろう)」ということをAIに教えれば、この問題については次からは間違えない。だが、それはほとんど無限にある「常識」をひとつ教えるだけであり、砂漠の砂粒をひとつずつ拾い上げていくに等しい無為な努力である。

長い階段を登っている最中のロボット

というわけで、いつか「常識」という大きなフレームごと理解できるコンピュータを作り上げるしかないわけだが、今の所、その予兆はないそうだ。ノイマン型コンピュータから脱却して、まったく新しいコンピュータ理論が必要になると予測している科学者もいるくらいである。

すっかり話が長くなったが、こういった事情でAIには学習・教育でも苦手分野が残っている。たとえば、現代文でよくある「次のうち、作者の気持ちに近いものはどれですか」といったような柔軟で飛躍のある思考を必要とするタイプの問題には向いていない。

そんなAIが塾講師になるという(ようやく本題に入れた)。名前を「atama +(アタマプラス)」といい、日本のAIベンチャーが開発している。
ここまで辛抱強く読んでくれた読者には分かると思うが、この「アタマ先生」は、「今でしょ!」などと言うようなタイプではない。

何をしてくれるかというと、生徒が解いた問題の正答・誤答の傾向を分析し、苦手分野を特定、効率的な反復学習を自動で行うものらしい。おそらく、AIに大量の回答データを教え込み、「Aの問とBの問を間違った生徒はCを理解できていない可能性が高い」といったような統計処理をさせているのだろう。

これはAIと人間が共存するひとつの道を示唆している。

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AIと人間の相互補完

 

「容赦のない」AIと、「味方になる」人間のタッグ

人間とロボットが握手をする様子

AIに仕事が奪われる、といった話はもう聞き飽きたが、数年後、少なくとも数十年後には実現のものとなっているだろう。
その理由については別の記事にしているのでここでは割愛するが、唯一、人間がAIと共存する道は ――あたりまえだが「AIにはできない仕事をする」ことに尽きる。

それは「常識」や「機転」または「芸術的才能」といった言語化ができない ―― 少なくとも現在はAIには獲得できない能力を活かした仕事に就くということだ。
逆に言えば、「データを蓄積して忘れない」「膨大なデータをもとに統計的な判断を瞬時で下す」といった人間には絶対不可能な分野はAIに任せるしかない。

アタマ先生の例では、生徒の回答データを決して忘れず、全国から集まる大量のデータを元にして算出した「統計的に正しい」指導を行うことは人間には無理だ。一方で、AIには「生徒の性格を理解した上で励ます」といったことはできない。つまり、学習指導という分野でAIと人間が相互補完的に能力を発揮できる可能性を示唆しているのだ。

読者も学生時代を思い出してみると納得すると思うが、淡々と「正しい」指導だけをされてもやる気は出ないものだ。ときには雑談で場を和ませたり、落ち込んだら励ましたり、「今でしょ!」と言って鼓舞したりといったことが必要不可欠である。

いつか、人間の塾講師の仕事はそれだけになるかもしれない。すると、塾講師になるために必要な素質も変わっていくだろう。しかしこれは、AIに仕事を奪われずに共存するための道である。

あらゆる分野でAIと人間が相互補完的に仕事の質を高め合う道を見つけることができれば、未来は明るいだろう。

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