2011年に警告されていた「アルゴリズムの門番」という存在
※この画像はイメージです
2011年のTEDでイーライ・パリザーが行った「危険なインターネット上の『フィルターに囲まれた世界』」という講演をご存知だろうか。この講演でイーライは、アルゴリズムによる情報の選別が私たちに危険な作用をもたらしているのでは? と警告してくれている。
とても有名な講演だし、時間も9分弱と短めなので、機会があれば見てみるといいだろう。(日本語字幕もついている)
(画像引用:TED)
https://www.ted.com/talks/eli_pariser_beware_online_filter_bubbles?language=ja
イーライは講演の中で、こう警告する。
新聞が登場して市民が情報にアクセスできるようになった当時、民主主義をうまく機能させるために「適切な情報」を与える必要があると気付いた人々がいました。それ以来、新聞やテレビ、ラジオなどのメディアから流れる情報は「編集者」という名の門番によって選別されています。
インターネットはこの門番を排除するものだと思われましたが、実際のところ、いまは「アルゴリズム」が門番に代わりをしているに過ぎません。
これは、インターネットのパーソナライズに対する警告だ。
いま、Googleで「レストラン」と検索すると、レストランという言葉の意味や定義ではなく、あなたの近くにあるレストランがトップに表示されるはずだ。ここれが、パーソナライズの一例である。
同じことが、SNSやニュースサイトでも起こっている。たとえば、Facebookでは「交流の多い友人」の投稿が優先して表示されるし、ニュースサイトではあなたの興味に合わせた記事が大きく表示される。
インターネットをより便利にするパーソナライズだが、一方で、情報の選択権を人間から奪っている、というのがイーライの主張だ。
フィルターバブルを作り出すAIによるパーソナライズ
イーライは、この状況を「フィルターバブル」という言葉で表現している。自分自身が賛同しやすい意見や情報が泡のように自分の周りを囲み、その外の世界が見えなくなることを指した言葉で、すでに情報リテラシーを語る上で一般的な用語になっているので知っている人も多いかもしれない。
この、フィルターバブルに囲まれた世界を作っているのが、まさにAIである。
あなたの検索履歴や利用しているアプリ、登録しているウェブサービスなどオンライン上でのアクティビティはもちろん、スマホの位置情報、使っているPCのOSなどを元にして、あなたの趣味嗜好をAIが予測し、あなたにとって「心地いい」情報を優先して提示してくる。
この趣味嗜好に関する予測は広告にも使われるので、GoogleやFacebookは大きなリソースを割いて正確な予測ができるAIの開発を続けている。
試しにプライベートのGoogleアカウントにログインした状態で、以下のリンクを開いてみてほしい。それが、GoogleがAIを使って予測している「あなた自身の姿」である。
▼ログイン中のブラウザで下記URLを開く
https://adssettings.google.com/authenticated
基本情報として年齢と性別が表示され、その下に興味分野がずらっと並んでいるはずだ。どうだろう、あなたの趣味嗜好にかなり近いのではないだろうか。
ここまではウェブのパーソナライズが進んでいなかった2011年時点で、イーライは次のような表現で情報の取捨選択に関する警告を行った。
食事と同じように、情報の摂取は「バランス」が重要です。
ジャスティン・ビーバーを少し、アフガニスタンの情報も少し…とヘルシーな情報とデザートのような情報のどちらも摂らなくてはいけません。
しかし、アルゴリズムによるフィルタリングでは、ジャンクフードのような情報ばかりを摂ってしまうことだってありえるのです。
AIとの上手な付き合い方を模索しなくてはいけない
イーライによるこの講演がひとつのきっかけとなって、各個人が自分自身のパーソナルデータをコントロールできる仕組みが世界中で検討されている。
たとえば欧州ではGDPRという強力な法規制の元で個人情報が保護されているし、「マイデータ(MyData/MiData)」というムーブメントではパーソナルデータをよりよい生活のために活かそうと国家ぐるみでの動きが活発になってきている。
いま私の家には4台のAIスピーカーがあり生活を便利にしてくれているが、一方でこちらの情報がGoogleやAmazonといったインターネットの覇者に渡っていることも間違いない。
便利な生活のために個人情報をどこまで差し出し、どこからは守るのか。このラインを意識して引くことが、今すぐにでも必要だろう。
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