コネクテッドカーという言葉を耳にするようになりましたが、その内容やメリット・デメリットについて理解している方はそう多くないと思います。
コネクテッドカーとは車両に何らかの通信機器を搭載し、離れた場所からでもやり取りが可能な車両を指したもの。
すでにETCやカーナビといった通信機器を搭載した車両が多数を占めていますが、コネクテッドカーと呼ばれる車両にはさらなる機能が搭載されているのです。
この記事ではそのメリットやデメリット、注目されているコネクテッドカーについて解説します。
▼この記事でわかる!
- コネクテッドカーとは何か?
- コネクテッドカーと自動運転車の違い
- 注目度の高い各自動車メーカーのコネクテッドカーについて
コネクテッドカーとは
広義では何らかの通信手段(GPSなど)を用いて外部との通信を可能にした車輌のことをコネクテッドカーと呼んでいます。
総務省の定義では「ICT端末としての機能を有する自動車」とされ、走行料に応じて保険料を変動させるテレマティクス保険や盗難時の追跡にも役立つ技術として注目を集めているのです。
狭義では扱える情報量や精度が高まったことにより、これまで以上の通信が可能になった車両のことをコネクテッドカーと呼んでおり、これまで実現できなかった機能を搭載してドライバーのストレス軽減や各業態のイノベーションに一役買う車両の開発が期待されています。
コネクテッドカーができること
総務省が掲げるコネクテッドカーの役割には以下のようなものがあります。
- 緊急通報システム
- テレマティクス保険
- 盗難車両追跡システム
それぞれ詳しくみていきましょう。
緊急通報システム
日本では導入が遅れていますが、海外では事故が起きた瞬間に車両が警察や救急へ連絡を行うシステムがすでに車両へ搭載されています。
欧州では2018年から「eCall」と呼ばれる緊急通報システムを車両に搭載することが義務化され、コネクテッドカーが人命救助に寄与することが期待されています。同様に、ロシアでも「eCall」と同様のシステム「ERA-GLONASS」の搭載が義務化され、2017年1月以降に販売される新型車すべてに緊急通報システムが搭載されているのです。
テレマティクス保険
欧米の自動車保険会社では、PHYDと呼ばれる評価基準をもとに保険料を算出しています。
コネクテッドカーでなければ実現できなかった採用基準で、ドライバーの事故リスクを評価し保険料を決定するものです。PHYDとは「Pay How You Drive」の頭文字を集めたもので、ドライバーのブレーキや加減速度、時間帯などをデータ化して事故リスクを評価します。
こうした利用方法はすでに日本でも実用化が進んでおり、あいおいニッセイ同和損害保険はトヨタ自動車と連携して評価基準「PAYD(Pay As Your Drive)」を導入しているのです。PHYDと同様にコネクテッドカーからドライビングデータを収集して、ドライバーの運転内容ごとに保険料を決定します。
盗難車両追跡システム
トヨタ自動車が2002年に導入した「G-BOOK」と呼ばれるテレマティクスサービスは、コネクテッドカーによる盗難車両追跡システムの先駆けです。
盗難車両抑止システムを搭載したトヨタのコネクテッドカーは、契約者が要請することでトヨタスマートセンターが該当の車両の位置情報を割り出すサービスを提供しています。追跡が容易になったほか、リモートイモビライザーを搭載してエンジンが作動しないようにリモートで指示を下せる機能を搭載するなど盗難防止に力を入れています。
国内でのコネクテッドカー開発はトヨタ自動車が一歩抜きん出ている状態といえるでしょう。
コネクテッドカーと自動運転車の違い
ここまで紹介したコネクテッドカーで実現できることは、さまざまな技術の集大成として実現できる結果に過ぎません。
自動運転車も同様に、さまざまな技術の結晶としてもたらされる恩恵のひとつです。コネクテッドカーの先に、技術の集大成としての自動運転車があると考えてよいでしょう。
未だ実用化には至っていませんが、コネクテッドカーによって自動車産業の市場が拡大すれば技術の研究開発費をさらに計上することにつながります。
より高度な先進技術を搭載するために企業の研究は欠かせない要素です。
たとえば衝突回避システムが搭載されている車両はすでに数多く出回っていますが、これはAIの画像認識システムが車両や人物を認識してブレーキを作動させることで実現しています。
AIは機械学習を行って精度を高めていくので、緊急停止の作動を繰り返して正しく作動する精度を高めるのです。こうしたデータがさらに蓄積されれば、いまよりも確実に停止や発進ができるようになるので、自動運転技術の実現にも近づくでしょう。
コネクテッドカー普及のメリット
コネクテッドカーはその卵となる技術なのです。
コネクテッドカーが普及するとどのようなメリットがあるのでしょうか?さまざまな用途でメリットをうけることができるので、それぞれ詳しく解説していきます。
コネクテッドカーの普及で緊急時の安全確保が簡単になる
先ほど紹介したとおり、コネクテッドカーには緊急通報システムが搭載されるようになります。事故後の緊急連絡が早く、自動で行われるので交通事故での人命救助が迅速になるでしょう。
コネクテッドカーの普及で車両にかかわるリスクが減る
アメリカの運輸省道路交通安全局が発表したデータによると、交通事故の原因のうち94%をドライバーによるヒューマンエラーであるといわれています。
(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO18664440Q7A710C1000000/)
コネクテッドカーの普及によって画像認識システムが高性能になれば緊急停止の精度が上がり、ヒューマンエラーによる交通事故を減らすことにもつながるでしょう。
先ほど紹介したトヨタの盗難車追跡システムなどによって車両の追跡が容易になるため、車両が盗難されるリスクも減少します。コネクテッドカーの普及によって車両にテクノロジーが融合すれば、車両に関するリスクを大幅に減少できるのです。
コネクテッドカーの普及で保険料が安く済む
コネクテッドカーの走行データは通信機器を通して詳しく収集できるので、受け取った走行データによって事故リスクや走行距離を割り出して個人に適した保険料を適用できます。
こうしたテレマティクス保険の導入によって、自動車ユーザーの保険料が一律ではなくなり、可変性を持たせることが可能になるのです。
コネクテッドカーが普及すれば保険料が安く済む方が増えるのもメリットの一つでしょう。
コネクテッドカーの普及で渋滞情報をリアルタイムでキャッチできる
すでに実用化されている機能の一つですが、より精度が上がるという意味では渋滞情報をキャッチできるというのもコネクテッドカーが普及するメリットです。
車がネットワークへアクセスできるようになれば、事故や工事といったタイムリーな情報を自動的にキャッチし、ドライバーへ伝えることが可能になります。
渋滞の解消や目的地へのスムーズな移動が可能になるのもメリットの一つでしょう。
コネクテッドカーの普及でカーシェアリングの可搬性が広がる
コネクテッドカーには位置情報を知らせる機能や固有の識別情報が搭載されるので、カーシェアリングがより容易に行われるようになるでしょう。カーシェアリングを行う個人のデータをスマートフォンなどの端末からネットワークへ登録し、借りる車両のデータと紐付けることができれば、煩雑な手続きを踏まなくてもカーシェアリングが可能になります。
コネクテッドカーはシェアリングエコノミーが発展する今後の時代に適した自動車のあり方といえるでしょう。
コネクテッドカー普及のデメリット
ここまではコネクテッドカーが普及したことで得られるメリットを紹介してきましたが、反対にコネクテッドカーが普及することで生まれるデメリットも存在します。それぞれ詳しくみていきましょう。
コネクテッドカーにハッキングされる危険がある
コネクテッドカーには情報端末が搭載されるので、ネットワークを介して悪意のある他者から介入される可能性があります。
これまではネットワークに接続するのはスマートフォンやパソコンなどの情報端末が主流でした。しかし、コネクテッドカーもネットワークに接続される情報端末(ICT)加わると考えればセキュリティを万全に行わなければなりません。
車両はスマートフォンやパソコンに比べて命に直結している機器といえます。一歩間違えれば命に関わる道具だからこそ、セキュリティの重要性はこれまでの情報端末よりも高まります。
これはコネクテッドカーを開発・販売するメーカーも重々承知している点なので、ユーザーである私達ができることは以下などの対策をとることが必要です。
- 端末のアップデートをこまめに行う
- パスワードやIDを他者へ漏洩しない
- 車両端末やスマートフォンで信頼性の低いウェブサイトへアクセスしない
コネクテッドカーの操作はアナログ車に比べて複雑になる
セキュリティの徹底に加えて、情報端末の操作という手続きが増えることで、運転に必要な作業は増えることが予想されます。これにより、高齢者や情報端末に弱い方にとってはコネクテッドカーの利用そのものが億劫になってしまう可能性も考えられるのです。
アナログ車であればキーを差し込んでひねればエンジンがかかり、発進できました。コネクテッドカーではこれに情報端末の設定やスマートフォンアプリを操作する必要も生まれます。
情報端末に極端に弱い方や抵抗がある方にとってはコネクテッドカーの利便性がかえってデメリットになり得るのです。
コネクテッドカーのメーカーによって別のフォーマットを使うと煩雑になる
アナログ車はどのメーカーの車両であってもほとんど操作は変わりませんでした。
しかし、コネクテッドカーになるとメーカーによって情報端末のフォーマットが変わる可能性があります。操作に慣れるのに時間がかかったり、同じ機能が使えなくなったりするでしょう。
操作に慣れるまではこうした煩雑さがハードルとなり、コネクテッドカーを利用しない方も一定数現れるのではないかと予想されています。
注目度の高いコネクテッドカー
さまざまなメリットやデメリットがあるコネクテッドカーですが、実はすでに実用化されているものもあります。注目をあつめているコネクテッドカーをいくつか紹介しましょう。
トヨタ「T-Connect」
トヨタは「T-Connect」と呼ばれるシステムと紐付けたコネクテッドカーを発売しています。新型車を開発したのではなく、既存の人気車にシステムを搭載することでコネクテッドカーに改善しており、Aquaやハリアーが代表的なトヨタのコネクテッドカーです。
車を駐車しているあいだに無理やりドアをこじ開けられるようなことがあれば即刻所有者のもとへ通知が送られたり、盗難されれば車両の位置情報を送ったりできるので、先ほど紹介したコネクテッドカーのメリットはすでに搭載されています。
すでに50以上の車種にこうした機能が搭載されており、さらに車種は増え、精度も上がっていくでしょう。
日産「NissanConnect」
日産はNissanConnectと呼ばれるシステムを開発し、コネクテッドカーの普及に向けて着々と準備を進めているメーカーです。
日産は2022年までにすべての日産車にNissanConnectを搭載することを掲げており、コネクテッドカーの開発に力を入れていることが伺えます。カーナビとスマートフォンを連動させたり、カレンダー機能を搭載していたりと実用的な機能が加わっているので、ドライバーの負荷やストレスを軽減する魅力的なコネクテッドカーが多数発売されているのです。
すでに発売されている代表的なコネクテッドカーの車種としては、セレナやエクストレイルが挙げられます。
コネクテッドカーの課題とは?実現に必要なこと
コネクテッドカーが現在抱える課題は、普及に向けて超えなければならないハードルの高さでしょう。
総務省が「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」として平成27年に行ったアンケートでは、「利用したい」「利用を検討してもよい」と答えた方は52.5%でした。
残りの半数近くのドライバーをどのように引き込むか、ユーザーにとってわかりやすいメリットを提示し購買を促すことが課題といえます。
しかし、コネクテッドカーが普及すれば搭載したAIやシステムから膨大なデータを取得できるため、自動運転に必要な材料を集めることができるのです。コネクテッドカーの普及は自動運転を実現させるために必要不可欠のステップだといえます。
コネクテッドカーへ不信感をもつユーザーに対しても働きかけるためには、ユーザーのニーズを満たす機能を搭載しなければなりません。コネクテッドカーが抱える課題を自動車メーカーがどう解決するのか、今後注目していきたいですね。