3,000人のユーザーによる「合議制」で動くアンドロイドの物語
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創作物に登場する合議制AI(複数のコンピュータによる議論、多数決で決断を下すAI)でもっとも有名なのは、新世紀エヴァンゲリオンに登場する「MAGIシステム」だろう。
自爆が提議された状態のMAGIにナノマシン型の使徒・イロウルが侵入して、MAGIを構成する3つのAIをひとつずつ侵し、多数決で自爆を決議させようとした回を覚えている読者も多いのではないだろうか。
今回紹介する「デモクラティア」というマンガに登場するアンドロイド「ヒトガタ」もあらゆる判断が合議制のもとに成り立っているが、AIによる合議ではなく3,000人のユーザー(人間)による議論が根拠になっている。
つまり、ユーザーから提議される多数の指示(歩け、止まれ、◯◯と言え、など)からもっとも支持を得たものが、アンドロイドの行動を決める。
なので、冷静な読者は気づいているだろうがこのマンガの主役はいわゆる「AI」ではない。自律して考える能力はなく、多数決の結果を反映するボディがあるに過ぎないのだ。
「エンタメ作品が描き出すAIの未来」の1本目として不適切と思われるかもしれないが、もう少し読み進めてほしい。この作品には、今のAIに不足している能力を補完するアイデアがあるのだ。
「ひらめき」を反映する多数決システム
この作品で「ヒトガタ」に採用されている多数決システムはとてもユニークだ。
多くのユーザーから提議された指示のうち、多いものから上位3つが選択肢として表示されるのに加えて、単一意見の中から「入力の早かったもの」がさらに2つ並ぶのである。
なので、たとえば「朝、充電が終わったベッドの上」といったシチュエーションで選択画面には以下のような並びが起こりうる。
多数意見
- 体を起こす
- 周りを見回す
- 時間を確認する
単一意見
- その場でブリッジする
- 二度寝する
多数意見は合理的なのに対し、単一意見は一見無意味なものが並んでいるが、実際、私たちは「無意味な行動」をとることが往々としてある。
つまり、これらは「ただのひらめき」以上のものではないのだが、これらが選択肢として登場することで「ヒトガタ」は非常に人間的なアンドロイドとなりえていて、それだけに様々な事件が起こる…というのがこの作品の見どころである。
これ以上はネタバレに入っていくので作品については置いておこう。AIを扱った近年のマンガ作品として出色の出来だと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
さて、ここからが本題である。私たちは、この作品を通じて何を学ぶべきなのだろうか?
非合理こそが人間らしさなのか