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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.10.08
2019.12.20

謎多きNetflixの立役者、リード・ヘイスティングスに学ぶAI時代の経営者の生き様

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

私たちは今、第三次AIブームの真っ只中にいる。

婚活や転職のマッチングに、問い合わせページのチャットボット、フィットネスアプリまで、AIの名を冠するサービスが毎月のようにリリースされる。

時には「それは本当に人工知能を必要とするようなサービスなのだろうか…」と疑問に思うようなものもある一方、もちろん、AIの力を十全に活用しているサービスも多数存在する。

その筆頭とも言えるのが、動画配信サービスのドン、Netflixだ。

事業の主軸を変えながらもインターネット、激動の時代を20年以上生き抜いた猛者

※画像はイメージです

世界190カ国以上、1億4800万ユーザーを抱えるNetflixは、AIを活用してユーザーの行動を解析、独自のレコメンド機能を発展させてきた。

これまでにアルゴリズム・コンテストの開催や、意図的に障害を起こすカオス・エンジニアリングなど、斬新な手法でサービスを強化し続けていることが知られている。

また、2011年以降はコンテンツ制作にも着手し、『ストレンジャー・シングス』や『ナルコス』など良質なドラマコンテンツを量産。昨年、一時的にではあるが、時価総額においてディズニーを超えるという快挙を成し遂げた。

日本には2015年に上陸し、2010年代、つまりごく最近のサービスという印象の強いNetflixだが、実はその創業はGoogleより早い1997年。アメリカで、DVDレンタルの配送業者として始まった。

単価支払いのDVDの配送業からサブスクリプションサービス、オンラインでの動画配信、さらにはコンテンツ制作…。インターネットにおいて激動とも言えるこの20年を、事業の主軸を変化させながらも、最新技術に寄り添い、乗り越えてきたNetflix。その内部はどうなっているのだろう?

今回は、Netflixの共同創業者であり、今なお会長兼CEOとして同社に君臨するリード・ヘイスティングスを中心に、同社の歴史を紐解いていく。

冷静沈着、分析好きなシリコンバレーの成功者

リードは1960年にアメリカのいわゆる上流階級の家庭に生まれた。母方の家系はアメリカの上流階級の証である紳士録「Social Register」のメンバーであり、科学者で投資家としても有名なアルフレッド・リー・ルーミスを曽祖父に持つ。

冷静沈着なリードは数学に魅了され、リベラル・アーツ・カレッジであるボウディン大学に進学、卒業後は、アフリカ南部のスワジランドで数学教師をしていたが3年間で帰国。その後、スタンフォード大学大学院に進学、人工知能に関する研究で学位を納めた。

※画像はイメージです

結局、大学院でコンピューターサイエンスにのめり込んだことが、シリコンバレーの起業家への入口となった。

1991年にはソフトウェアのバグ発見ツールを提供する「Pure Software」を創業。複数回の買収を経て、規模を拡大し、4年後にはIPO(株式公開)までこぎつけた。
そして、Pure Softwareにおける買収の過程でNetflixの共同創業者であり初代CEOを務めたマーク・ランドルフと出会う。

マークはリードが買収したソフトフェア開発のスタートアップでマーケティング部門の責任者を担当していた。IT企業勤務といっても、テクノロジーに邁進してきたリードとは対照的に、マークはマーケティング一筋、また、明るく社交的だった。

性格も専門分野も全く違うリードとマークだったが「新しい大きなことを始めたい」という思いは共通していた。そして互いの不足を補う形で、新たなアイディアが生まれた。

それが配送によるDVDレンタル事業。のちのNetflixである。

Netflixのはじまり、影をひそめるリード

1997年にソフトウェア開発大手のRational SoftwareによるPure Softwareの買収が決まると、単なるアイデアだったDVDの配送レンタル業が事業計画として動き出した。

※画像はイメージです

Netflixの立役者、という印象の強いリードだが、当時サービス名もなかったこの事業の始まりにおいては影を潜めていた。
事業売却に伴い多額の売却益を得ていた彼の関心は、以前より興味を持っていた教育関係の慈善事業や政治アクティビストとしての活動に向いていたのだ。

そのため、事業に関するあらゆることの主導権は実質的にマークが握っており、リードはエンジェル投資家としてスタートダッシュを支える、という体を取っていた。

マークは非常に小さいものの、誰もが対等で役職とわず情報を共有するオープンなチームを作った。このチームからは、「Netflix」というサービス名や、タイトルや出演者、製作者の名前から映画を検索できるエンジン「フリックスファインダー」など、サービスの下支えとなる様々なアイディアが生まれた。

事業計画から半年後、1998年の4月にNetflixという名前を冠したサービスがローンチされた時も、リードは時折オフィスに顔を出す程度だったという。

しかし、在庫を無数に抱え、単価も決して高くはない「DVD配送レンタル」事業というブルー・オーシャンの荒波は並大抵のものではなかった。
Netflixは常に多大な負債を抱え、この新たなサービスに疑いの目を向ける投資家も少なくなかった。

同社がさらなる成長に向かいもがく中、リードは徐々に経営に関わるようになっていったという。また、投資家にとっても、自ら作り上げたサービスを多額で売却した経験のあるリードの存在は大きく、彼の影響力は日毎に増していった。

そして、1999年、ついにリードはNetflixのトップーー会長・社長・CEOーーに君臨した。

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"超"合理的なチーム体制

超合理的なチームがサービスを1から100へと伸ばしていく

森羅万象、人員配置ですら数式に落とし込もうとする、数学フリークのリードの経営は、当然ながら、人間関係を重要視するマークの経営方針からはかなり逸脱していた。
そのため、リードの仕事はまず、人材の刷新から始まった。

※画像はイメージです

リードが率いるチームは往々にして「スポーツチーム」に例えられる。
つまりチームが勝つ(成功する)ために常に最善の選手を取り揃え、チームに不要な選手は即解雇する、というもの。

こうした人材の流動性の高さは、今なおNetflixの屋台骨となっている。
特に、昨年The Wall Street Journalが報道したNetflix独自の人事方式は物議を醸した。例えば、各マネージャーが部下をクビにするか、しないかを決める「キーパー・テスト」や自らの失敗を全社員の前で発表する「サンシャイニング」など、そのほとんどが従来の経営方式では考えられないセンセーショナルなものばかりだ。

一見すると異様にも見えるリードの合理主義的な経営方針は、しかし、会社の利益を求める彼の一貫した姿勢と、時代の変化を読み取り事業の舵を切り替える慧眼もあり多くの社員に共感されたという。

結局、一連の競争文化がNetflixの事業拡大の追い風となった。

その後、DVD配送レンタル事業で月額一定で借り放題のサブスクリプションモデルを打ち立て、大DVD時代を生き抜き、2007年、ついに動画配信事業に踏み切る。

『いけるぞ、ストリーミングは当たりだ!』と思ったのを覚えているよ。わが社がグローバルな大企業に発展していく出発点になったのがあの日だった

テレビを解放せよ。CEOリード・ヘイスティングスが語るNetflix

経営陣によるテックへの深い理解が新時代のサービスの要となる

DVD配送レンタル事業が軌道にのる中で、サービスの主軸を切り替えるという選択は、リードをはじめ経営陣によるテック業界への傾倒と深い理解があったに他ならない。

その証拠と言ってはなんだが、ここで、DVD配送レンタル事業においてNetflixを脅かしたレンタルチェーン「Blockbuster」の話をしよう。

※画像はイメージです

Blockbusterは、長きにわたりビデオのレンタル事業を行ってきた。そして、DVDの台頭に伴いレンタル配送事業にも着手し、成果をあげていた。しかし、報酬についてトラブルになりCEOが交代に。
新CEOはセブンイレブン出身、店舗経営における知見は十分に持っていたが、案の定「デジタル音痴」だったのだ。
「人々がUSB片手に実店舗にレンタルデータをダウンロードしにやってくる」未来を夢見て、配送業への投資を縮小し、実店舗経営に主軸を切り替えた。これが致命傷となり、2010年に倒産した。

一方、人工知能研究で学位をとったリードは、インターネットの一般への流通とユーザーの行動データの重要性に早々と目をつけた。

DVD配送のように在庫を抱える必要もなく、さらにはオンライン上でユーザーのコンテンツ視聴のビッグデーターーどこで再生し、どこで停止ボタンを押したかーーまで取得できるストリーミングサービスに光明を見たのだ。

スマートフォンの普及が進む中、ストリーミングサービスに焦点を絞り、カナダを筆頭に国外にもサービスを展開し、全世界規模で成長を続けることとなる。

未知のサービスを実現するテック・リードな経営者

2011年、Netflixは自社でのコンテンツ制作に着手する。
映画界の巨匠、デヴィッド・フィンチャーが監督を務めたオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』が満を持して公開され、大成功を納めた。この成功の背景にも、これまでの行動データを基にした視聴者の趣味趣向の解析があったという。

そして、昨年、オリジナル映画『ROMA』がアカデミー賞において外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3部門を受賞。ディズニーと比肩するコンテンツ制作企業としても認知されるようになった。

※画像はイメージです

これまでの成功を振り返り、リードはこう語る。

創業以来ずっと、「ユーザーから学ぶ」ことを何よりも大切にしています。ユーザー調査を重ね、試行錯誤を繰り返してきました。

ネットフリックス創業者兼CEOに聞く「王者になれた理由」

Netflixの歴史の背景には様々な要素があり、その成功は一筋縄では語れない。
しかし、リードのテクノロジーへの理解と的確な人員配置、ユーザーニーズを炙り出す経営手腕がなければ、ここまでの成長は見込めなかっただろう。

新しいサービス、を考えるとき、私たちはいつだってセンセーショナルな最新テクノロジーに目を向けてしまう。しかし、未知のサービスの実現に必要なのは、最新テクノロジーそのものではなく、テクノロジーを愛し、ユーザーニーズと結びつけることができる新時代の経営者なのかもしれない。
参考引用文献・サイト

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