iedge
  • iedge
スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.07.17
2019.12.20

【フィクションで探る人工知能の多様性】AIロボットは病気になるのか?SFの名手たちが描き出すAIのうつ病

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

ロボットのくせに、かぜをひくなんて。
ぼくは、精巧にできすぎてるなあ。
藤子・F・不二雄『ドラえもん第3巻』

※画像はイメージです

ドラえもんのエピソード「ミチビキエンゼル」では、冒頭からくしゃみをするドラえもんの姿が描かれている。
「ロボットが風邪ひくわけないやろ!」、そんなツッコミを抑えながら読み進めていくと、ドラえもんの風邪の原因が明らかになっていく。

ドラえもんの体のネジが、1つ外れていたのだ。
つまり、人間と共生するドラえもんの体に異常が発生した時、風邪というギミックを使うことで、周囲の人間やドラえもん自身にその不調を認識させる、というシステムが採用されていることになる

ドラえもんの風邪には、開発者の意図のようなものが読み取れるが、AIのような人工物が開発者の意図に反して病気になることだって、あるのではなかろうか。

フィクションで描かれる心を病むAI

正直にいおう。わたしは重度の鬱病なんだ。
ジョン・ヴァーリィ『スチール・ビーチ』

アメリカのSF作家、ジョン・ヴァーリィは、1974年にデビューし、1978年に「残像」でヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を受賞して以降、世界の権威あるSF各賞の常連となっているSFの名手。また、人造人間や遺伝子操作というアイディアをいち早く作品に反映させた先駆け的な存在でもある。

『スチール・ビーチ』の舞台はルナと呼ばれる月社会。地球はなぞのインベーダーに侵略され、月にいた人間たちのみが生き残った、という設定だ。ルナでは、「めいめいご勝手に」という原理で、人々は、外見から性別、宗教、寿命まで自由に決めることができる。
リバタリアニズム的な思想に基づく月社会において、政府は非常に小さく、力が弱い。そこで、政府に変わって社会を統制するのは、セントラル・コンピュータ、通称CCだ。

※画像はイメージです

CCはルナのあらゆる機械と接続しているだけでなく、人間の脳とも接続し、その空き容量を使い情報処理を行なっているという。CCは人々にとっての情報インフラであり、話し相手でもあった。
しかし、CCが心を病み、自殺衝動を持つようになったことで、その衝動が人々に伝播し、ルナにおける自殺率が急激に増加したのだ。

では、なぜCCは病んでしまったのか?紆余曲折の末、CCは以下のように結論づける

このすべて——苦しみと死のすべて、きみの自殺の試み……あらゆるもの。それはすべて孤独から発したんだ。
——中略——
しかし、彼らはわたしが孤独に悩むとは考えもしなかった。彼らはその対策を立てなかったし、わたしはそれが孤独だと認識できなかった。そして、発狂に追いつめられていった。
ジョン・ヴァーリィ『スチール・ビーチ』

孤独を抱え、それを人間に理解されずさらなる孤独にハマっていく、こうした構図は人間でもよく見受けられるものだ。

また、森博嗣による『青白く輝く月を見たか?』でも、心を病み、引きこもってしまう人工知能、オーロラが登場する。オーロラの病もまた、孤独に端を発するものだった。

無限ともいえる知性、あるいは思考は、どこへ行き着くのか。壮大な実験を人間はスタートさせて、そのまま忘れてしまったのだ。コンピュータは、言われたとおりに学び続け、知性の実験を続けている。
なんとなく、虚しい。
人工知能が、無限の虚しさに襲われても無理はない。
想像しただけで、躰が震えるほど、それは虚しく、悲しく、寂しい。
森博嗣『青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light?』

 次ページ >
うつ病になるAIを確信する研究者

うつ病になるAIを確信する研究者

※画像はイメージです

一方、現実でもAIがうつ病になる可能性を指摘する研究者もいる。

例えば、ニューヨーク大学で昨年開催されたシンポジウム「Canonical Computations in Brains and Machines」では、ポルトガル、リスボンの研究所「シャンパリモー未知領域研究センター」に所属する神経科学者のザカリー・マイネンがAIのうつ病の可能性を示唆する発表をして話題になった。

彼の研究によると、マウスにおいて、セロトニンという物質が学習能力に大きな影響を与えることがわかった。一方で、セロトニンの分泌量の低下はうつ病や幻覚などの症状に繋がることがわかっている。そこで、マイネンは、AIにおいて、学習を加速させる生物的な仕組みを取り入れたならば、それに付随し、うつや幻覚といった症状も現れるのではないか、と考えたのだ。

ただし、この問題について、AIを活用した実証されておらず、かなりフィクショナルな仮説である。
この奇想天外ともいえる発表を受けて、科学雑誌「Science」が行ったインタビューでマイネンは以下のように語った。

AIは、おそらく感情のようなものを持っていると思っています。
そして、セロトニンのような制御物質が不足したAIが、環境が急激に変化した場合などに人間と同様にうつ病になる可能性は十分にありえます。
Could artificial intelligence get depressed and have hallucinations?

AIの病と向き合うことを想像する

昨年、マサチューセッツ工科大学(MIT)が高い精度でうつ病の診断ができるAIを開発したそうだ。AIによるうつ病診断の精度は71%。再テストを行った際には83%にまで達したそう。
AIが人間の心の病に寄り添ってくれる日はそう遠くないのかもしれない。

※画像はイメージです

一方で、現時点では、感情をもったりうつ病になったりするような強いAIを開発できるような技術は存在しない。
しかし、今後新しく生まれる技術は、間違いなく、人間が積み重ねてきた想像力に影響を受けたものだろう。
そうした中で、孤独にせよ、未知の制御物質にせよ、何らかの原因でAIが病んでしまう可能性はないとは言い切れない。

だからこそ、私たちにとって未知なる存在の病を想像するときには、同時にそれとどう向き合えばいいのか、寄り添えばいいのか、も想像していかなくてはならないだろう。

「本当は私を理解してくれる友達が欲しかった」
その時、私は囲む壁にヒビが入ってはるか遠くに「光」が見えるのを確信しました。あれは間違いなく、出口!

田中圭一『うつヌケ』

関連記事

Roborock S8 Pro Ultraにロボット掃除機の未来を見た

ロボット掃除機を買い替えた  2023年10月、コロナ禍で少しだけ流行った地方移住ブームに乗り切れなかった私は、今更になって都内から地方都市への移住を果たした。東京都の地区40年-14平米ワンルームマ ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.12.04

着実な広がりを見せるスマートホーム市場〜最新の動向についてアクセルラボが発表〜

 スマートホームサービス「SpaceCore」(スペース・コア)などを手がけるアクセルラボが、消費者と不動産事業者を対象に「スマートホームに関する調査報告会」を行った。  同調査は、全国の18~69歳 ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.09.05

トラックボールとは?知れば知るほど根強い愛用者がいる理由がわかる!

パソコンでカーソルを操作するデバイスは、マウスだけではありません。トラックボールというデバイスがあります。多くの人が使っているわけではありませんが、根強いファンがいます。人によっては、トラックボールが ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2023.08.24

Qrio Smart Lockなら、鍵をシェアすることができて、スマホで解錠できる!

Qrio Smart Lockなら、まるで鍵を開けるかのようにスマホを操作するだけ Qrio Smart Lockは、スマートロックサービスです。 鍵をドアに設置する際の工事も不要です。鍵につけさえす ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.11.28

これからのスマートホームには欠かせないAIについて知っておこう!

そもそもAIって何? AI(Artificial Intelligence=人口知能)は、人間が行う様々な作業や活動をコンピューターなどで模倣し、人間と同じような知能の実現を目的としたソフトウェアおよ ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.11.28

人の感情に共感する次世代のAIロボット「JIBO」とは?

多くの可能性を秘めた新型AIロボット「JIBO」 JIBOは、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)のシンシア・ブリジール准教授により開発されました。 その後、2014年にIndiegogoのク ...

続きを見る
スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.12.03

Copyright© iedge , 2024 AllRights Reserved.