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2019.04.10
2019.04.12

Netflixが牽引する「エンタテック」の素晴らしさと悩ましさ(後編)

記事ライター:Yuta Tsukaoka

最近、真剣に「テレビに地上波チューナは不要なのでは?」と考えるほど、私の家ではVODサービスが活躍している。
Netflix、hulu、Amazon Prime Video、U-NEXTなど、見たいときに見たいものを定額制で見られるSVOD(Subscription Video On Demand)は特に便利で、しかも楽しい。

その「便利さ」そして「楽しさ」を支えているのが、この記事で「エンタテック」と呼んでいる技術だ。
前編ではNetflixが採用している作品評価システムをもとにそのメリットを解説した。この後編では、その裏で指摘されている問題点についても考えてみよう。

いいことばかり…ではないかもしれない

Netflixが導入したAIレコメンドに代表されるエンタテックは、私たちにより適切で楽しめる作品を提供するのに一役買っている。喜ばしいテクノロジーのはずではあるが、一方で問題も指摘されている

それが、Netflixのオリジナル短編アニメーションアンソロジー「ラブ、デス&ロボット」のストーリー順だ
このシリーズは完全な一話完結型なので、どの順番で見ても楽しめるようにできている。そのことを利用し、Netflixがユーザの趣味嗜好をもとに表示順を変えている(のではないか)という指摘があったのだ。

Twitterでこの問題を発見したとする@LukasThoms「めちゃくちゃバカげた実験を行っていることがわかった。Netflixはゲイかストレートかで『ラブ、デス&ロボット』のストーリー順を変えている」とツイートしている。

Netflixはこれを公式に否定しているし、この問題を報じたThe Vergeが独自にテストした結果もそれを否定するものだったが、実際に4種類の視聴順を用意し、ユーザによって出し分けていることは確かなようだ。私もこの作品を見たが、作品番号がないことには気づいていたのでこの説は信用に値すると考えている。
(ソース:https://www.theverge.com/2019/3/22/18277634/netflix-love-death-robots-different-episode-orders-anthology-show

また、昨年の10月には黒人の視聴者には作品のサムネイル画像に黒人を、そうでなければ白人をメインに扱っているという指摘もあった。これもNetflixは「人口統計的にユーザをターゲティングしたことはない」と明確に否定しているが、多くのツイートが同様の問題を指摘していることからその主張には疑問符がつけられている。

「何を見るか」は誰が決める?

ユーザの信頼を損ねる内容を含んでいたかどうかは不明だが、Netflixはサムネイル画像にしろレコメンドの方法にしろ、厳密なA/Bテストを行っていることで有名だ。適切なサービスを提供するのにA/Bテストは必要不可欠だし、その恩恵も私たちは受け取っている。
レンタルビデオ店では見向きもしなかった作品であっても、私たちはNetflixのAIレコメンドによってそれら作品に「出会って」いるはずだ。

しかし、私たちが「何を見るか」という決定権をAIに委ねてしまっている不安感は拭えない

映画やドラマ、アニメ、もちろん小説やマンガも含めて、芸術作品は新しい考え方や生き方をインストールしてくれるものだ。私たちは「ゴッド・ファーザー」で人と人との信頼について考え、「ウォーキング・デッド」ではタフに生きるための考え方を知ることができる。

人格形成にとって必要不可欠ともいえるこの芸術作品を(姿の見えない)他者に「見せられている」としたら。それはジョージ・オーウェルが「1984」で描いたディストピアの世界と何が違うというのだろうか。

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