スタンフォード大学ビジョン&ラーニングラボ(SVL)は、現在「ジャックロボット2」を開発しています。ジャックロボット2は、人間同士のコミュニケーションにおける社会的ルールを覚え、社会で人間と協力してタスクをこなしていくことを目指しています。
初代ジャックロボットは、キャンパス内で人々にものを運んだり、目的地に案内したりすることを目的に開発されました。
その点、次世代であるジャックロボット2は、「より自然な人間―ロボット間コミュニケーション」を実現するため、より高い社会的知性、高性能な光センサーや360度カメラを搭載しています。
スタンフォード大学コンピューターサイエンス学部の助教授Silvio Savareseは「我々は道を歩くとき、一定のルールを守り、人と一定の距離を保って歩きます。こういった暗黙の了解を、規則化してロボットに覚えさせることは難しいのです」と述べています。また、人間の表情や笑い、恐怖などを引き起こす音なども、ジャックロボット2は覚えようとしています。
プロジェクトに関わる博士研究員のRoberto Martín-Martínは、「これから来る人間とロボットの共生時代において、ロボットが自分の意思を持って喜びや怒りを伝えられるようになってほしいと思っています」と目標を語りました。
デジタル眼球や頭部のスピーカーを使って、ジャックロボット2は自分の感情を表現し、人間とのコミュニケーションを、ある程度とることができます。搭載されたLEDライトは感情によって色が変化し、新しく取り付けられた長くて黒い腕は、物を持ったり方向を指し示したりするのに役立ちます。
「ジャックロボット2は、周囲の環境を理解する仕組みと、常識や暗黙の了解を理解する仕組み、単にその2つの組み合わせというわけではありません。それらの常識やロボット自身の意思を、いろいろな方法で表現することもできるのです」とSavareseは強調します。
現在、研究者たちはロボットの感情や仕草を、どのように有効利用するかを考えています。ロボットが人と人との自然な距離感といった“常識”を考慮しつつ、与えられたタスクをこなすには、効率と社会的知性のバランス感覚が重要です。
同大学でコンピューターサイエンスの修士を取得したAshwini Pokleが分かりやすい例を挙げています。
「2人の人間が立ち話をしているとします。2人の間にある程度の距離があるとしても、ロボットはその2人が会話していること、2人で1つのグループであることを認識する必要があります。そうすれば、2人の間にロボットは割って入ってはいけないということが理解できます」
社会でどう振る舞うかというルールはとても感覚的で、なかなかプログラムできるものではありません。そこで研究者たちは、ロボットが人間の模倣やデモンストレーションから振る舞いを学習していく技術を研究しています。模擬的な環境でのロボット運用のデータは既に多く蓄積されています。
例えば、人や障害物がランダムに配置された空間で、人々にロボットとコミュニケーションを取ってもらい、そのデータを収集します。その上でロボットは収集データを模倣して、学習を重ねます。
このような用意された環境で集められたデータの次は、自然な環境でのデータの収集も必要です。実際の人間との関わりは、ロボットにとって未経験でデータにないことも多くあるでしょう。
リアルなデータを多く収集し、学習することにより、ロボットは初めて経験することにも自分で対処できるようになっていきます。現在、SVLでは、模擬環境での遠隔操作に集中的に取り組んでいますが、将来的には自律運用ができるようになる見通しです。
ロボットが人間の生活に溶け込めるようになれば、多くの可能性が広がります。Martín-Martín は、ショッピングモールや空港での案内役、顧客への商品の配達、建物の監視や警備など、多くの潜在的用途が考えられるといいます。
Savareseは人間とロボットが共存する未来がくると予想しています。ロボットが人間にとって代わるのではなく、仕事や日常のタスクなどあらゆる場面で両者が協力し合う未来です。人間の行動、常識、感覚を学んだロボットは、人間にとって異物ではなく、コミュニティの一員として、この世界に共存していく可能性が高いといえるでしょう。
(画像引用:https://www.stanforddaily.com/2018/10/19/stanford-vision-and-learning-lab-develops-social-robot-to-roam-campus/)