農作物を作る場合、生産者は土壌や水質を検査します。現在、農場経営者が検査に用いる方法は2通りあります。ひとつは、水や土のサンプルを研究所に送るというものです。そしてもうひとつは、土壌検査システムを自前で作るという方法があります。
研究所を利用する場合、結果が返ってくるまでにかなりの時間を要します。また、かかる費用もかなりのものです。かといって、検査システムを自前で作るとなると、それ以上に費用や労力が掛かります。
農業経営者は、このように負担のかかる土壌検査を、年に2~3回は実施しています。家族経営などの小規模な農業経営者にとって、これがどれだけ大変なことかは、想像に難くありません。
「AgroPad」は、そうした現状を変えるべく、ブラジルのIBM基礎研究所によって作られました。同製品は、農業の現場で、リアルタイムな土壌検査を可能にしたものです。
この技術が普及すれば、従来の方法と比べて、格段に手軽に土壌検査ができるようになります。
※IBM基礎研究所:世界6大陸12か所に研究所を構える、産業界最大の研究機関
IBMの研究者は、「AgroPad」が試作段階であると前置きしながらも、「“AgroPad”は、世界の農業に変革をもたらすかもしれない」と語ります。
特に現在、世界の食の80%を支えているのは、小規模農場であると言われています。そのため、土壌検査の負担軽減による影響は、世界的に見て大きいと言えるでしょう。
「AgroPad」の検査キットは、名刺サイズの紙製のデバイスです。これに土壌のサンプルを乗せた後、検査キットの様子を撮影します。検査キットにはマイクロチップが内蔵されており、サンプルに含まれる成分によって、検査キットの色が変わります。
あとは、スマートフォンの「AgroPad」アプリによって、その土壌の分析結果が表示されます。具体的には、生産性を最大にするために必要な肥料などがわかります。これにより生産者は、土壌を効率的に改良することができるわけです。
また、分析と同時に、検査した土壌の位置情報を保存することができます。それによって、土壌の成分の変遷を把握することもできるようになります。こうした「AgroPad」の一連の機能には、クラウド技術が活用されています。
IBMは、「AgroPad」の技術を応用できる分野として、以下の3点を挙げています
・あらゆる地域の水質管理
水質汚染の発見や、水によって引き起こされる病気等の予防など
・食品や飲料の安全管理
乳児が口にするミルクなどの安全性の検査など
・医療現場における感染症管理
唾液や尿をサンプルとした、性感染症の検査など
人間が生活する以上、水や食料にまつわる問題は必ず付きまとうものですから、この研究の意味は大きいものであると言えるでしょう。「AgroPad」の今後の活躍が期待されます。