米Googleとその子会社Verily Life Scienceの研究チームは2018年2月19日(日本時間2月20日)、ディープラーニングによる心血管疾患のリスク評価モデルに関する論文をNature誌で発表しました。
今回の技術では、患者の網膜をスキャンすることで、個人の年齢、血圧、喫煙の有無などのデータをかなり正確に推論するとともに、心臓発作などの主要な心血管疾患に罹患するリスクを、現在の主要な方法とほぼ同じ精度で予測するたことが可能です。
このモデルは血液検査を必要としないため、今後医師が患者の心血管リスクをより迅速かつ容易に分析できるようになる可能性があります。しかし、臨床使用の前には、十分な精査の必要があります。
この研究に関する論文は、2017年9月から査読され、2月19日のNature Biomedical Engineeringに掲載されました。
GoogleとVerilyの研究者は約300,000人の患者の医療データセットを用いてアルゴリズムを改良し、評価モデルを確立しました。用いた医療データは、網膜眼底画像と年齢、性別など一般的なデータであるとのことです。
今回のモデルでは、一般的なディープラーニングと同様の手法で、脳細胞をモデル化したニューラルネットワークを用いて、この情報パターンを心臓疾患と関連付け、心血管疾患リスクを予測するために必要な指標と関連づけ学習しました。
健康状態を判断するために目を観察するアイデアは、珍しいように見えますが、網膜の状態と全身の健康状態の関連性は広く研究されています。
眼底には、身体全体の健康状態を反映する血管が詰まっています。医師は、カメラと顕微鏡でその外観を研究することで、個人の血圧、年齢、喫煙の有無などを推測することができ、これらはすべて心血管疾患の重要な予測因子です。
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの循環器生理学および薬理学分野のアラン・ヒューズ教授は「心血管疾患リスクを予測するために網膜を観察してきた長い医学の歴史に照らし合わせると、Googleのアプローチは信頼できるものだ」と語りました。しかし彼は同時に、人工知能が実際の医療現場で責任ある診断を下すためには、より信頼性を増す必要があり、アルゴリズムをさらに改良する必要があるとも警告しました。
Googleにとって、この研究は心血管リスクを判断する新方式というだけではありません。AIが人類社会に実際の恩恵をもたらすパラダイム・シフトの第一歩として捉えています。ほとんどの医療アルゴリズムは、人間が行う診断法をAIが代わりに担う形で構築されていますが、このアルゴリズムは人間に出来ない診断を下します。
Googleは人工知能が十分なデータを得ることで、まったく新しい医学的知見を得ることを期待しています。その実現のために、4年間にわたって10,000人の詳細な継続的医療情報の分析を行っています。
今のところ、AIが人間の監視なしに病気を診断するという未来はそれほど近いものではありませんが、Googleによるとそれは完全な夢物語ではないとのことです。