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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.06.21
2019.12.23

【連載】いま一度「IoT」という言葉について考えてみよう(最終回・全4回)

記事ライター:Yuta Tsukaoka

ここ数年、「IoT」という言葉を私も、きっと読者もよく使うだろう。しかし、その意味するところは漠然としている。

このモヤを取り払うことができれば、私たちがIoTについて考え、問題点を見出し、未来を見通す助けになるのではないかという希望を込めた全4回の連載も、これで最後となる。

ここまで、「IoT」という言葉を生んだ人物といわれるケビン・アシュトンが実は「Internet For Things」という言葉を好んでいたという逸話を紹介し、「For」と「Of」でその意味がどう違うのかについて考えた

前者は産業や流通に使われ「モノの生産性のために」利用される技術の一群と捉えられるだろう。一方、後者の意味はもう少し曖昧で、言葉のとおりに訳すなら「モノのインターネット」。しかし、具体性をもたせるとすれば「インターネットのようなモノ」のほうが正しいのでは? という意見を述べた。

つまり、最初期にあった「モノのためのインターネット」を脱し、いま「インターネットのようなモノ(双方向性と拡張性を獲得したモノ)」のことを指して私たちは「IoTガジェット」と呼んでいるのではないかということだ。

しかし、私たちは知っている。双方向性と拡張性を獲得した電話機 ――スマートフォンを「IoTガジェット」とは呼ばないということを

ここにある隔たりこそが、私たちに「IoT」という言葉の本当の意味を教えてくれるだろう。

「IoTガジェット」をIoTガジェットたらしめているのは何か?

連載の第3回で、「IoT」という言葉を私たちの身近に広めた立役者としてAmazonのdash buttonを紹介した。

「手に入れやすく」「分かりやすいメリットがあり」「見た目がかわいらしい」のがポイントだ。これにより、私たちはdash buttonを通じて「IoT」という分かりにくい言葉を「手に取れるモノ」として理解することができた

では、dash buttonのようなIoTガジェットを列挙していけば、それで「IoT」というコンセプト全体を表現しうるのだろうか? 違うはずだ。それでは、その中にスマートフォンが含まれないことを説明できない。「IoTガジェット」をIoTガジェットたらしめている何かが、きっとある。

もちろん、通信方式や価格ではない。「IoT」を冠するガジェットたちに共通するもの…。これもまた、dash buttonがもたらしたと私は考えている。

「IoT」という言葉はコンセプトから「広告コピー」に

dash buttonがもたらした最も大きな功績は、「IoT」という言葉をコンセプトから「広告コピー」へと変化させたことだと私は考えている。

「IoT = Internet of Things = モノのインターネット」という、何を言っているのかよくわからないが未来を想起させるこの言葉は、Amazonがdash buttonを売るためにうってつけな広告コピーだった。

人は、「コンセプト」にはお金を払わない。しかし、それが「モノ」の形をとればお金を払える。

クラウドファンディングで資金を募っているプロジェクトや、ベンチャーキャピタルの出資先企業を見てみるといい。コンセプトだけで資金を集めている例はほとんどない。ガジェット、アプリ、サービスなど「手に取れる・体験できる」形をもって、はじめて資金が集まってくるのだ。

つまり、Amazonは「IoT」という言葉にdash buttonというモノの形を与えることで、「IoT」という言葉をコンセプトから「先進性と利便性を感じさせる広告コピー」に変え、消費を生み出したのである。

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「IoTフォン」になったかもしれない

スマートフォンは「IoTフォン」と呼ばれていたかもしれない

いまAmazonはすでにdash buttonの販売を終了しているが、IoTガジェットはAmazonにたくさん出品されている。Amazonサイトのトップから「IoT」と検索してみるといい。6000を超える商品群がずらりと並び、多くのレビューと注文を集めていることがわかる。

ご存知のように、「IoT」という言葉は広告コピーの枠を超え、すでに「製品カテゴリ」の一角をなしているのだ。その端緒が、dash buttonだった。

Amazonがdash buttonによって生み出した「IoT」という広告コピーは、「IoT対応!」「IoT機能を搭載!」「IoTで暮らしを豊かに!」そんな謳い文句を叫ぶ製品を大量に生み出している

このシリーズ記事では、ここまで「IoT」という言葉の前に漂うモヤを払い、その漠然とした言葉に意味を与えようとしてきた。そのモヤとは、つまり、「IoT」という言葉を広告コピーとして利用している今のこの状況に他ならないというわけだ。

消費のために広告コピーを使うことは悪いことではない。しかし、「IoT」という言葉の本質を見据えるためには一度、それを取り払わなくてはいけないのだ。

このことを理解すると、記事の冒頭で投げかけた「スマートフォンをなぜIoTガジェットと呼ばないか」という問いに答えが出る。

dash buttonの登場よりもスマートフォンの登場のほうが早いため、IoTという「広告コピー」が発明されていなかったからだ。もし、いまスマートフォンが世の中に新登場するということになったら「携帯電話にIoT機能を搭載!」などと広告され、「IoTフォン」呼ばれていただろう。

「IoT」という言葉について考える意味

ここまで、7000字を優に超える連載記事を読んできた読者はがっかりしているかもしれないが、その必要はない。

もともと「Internet For Things」と呼ばれる産業・流通用の技術からはじまり、dash buttonが消費者の手に取れる形を与え、「IoT」という言葉が広告コピーとして機能するようになったことを理解すれば、これからが見通せるはずだ。

その核心にあるのは相変わらず、「Internet of Things」という言葉が指すように「インターネットのように双方向性と拡張性を獲得したモノ」というコンセプトである。

ここさえ抑えておけば、広告コピーに踊らされることもないだろう。そして、身の回りにある、あらゆる「モノ」を眺める目も変わる。そこに双方向性と拡張性を加えたら? いったい何になるのか考えることができるはずだ。

そして、その逆もできる。「IoT」を謳っているものを見て、そこに「双方向性と拡張性」がないのであれば、それはただ、広告コピーとして「IoT」という言葉を使っているだけだ。

この全4回の連載が、読者の皆さんにとってIoTを正しく理解し、次の潮流を作り出す手助けになれば何よりである。

 

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