ここ数年、「IoT」という言葉を私も、きっと読者もよく使うだろう。しかし、その意味するところは漠然としている。
このモヤを取り払うことができれば、私たちがIoTについて考え、問題点を見出し、未来を見通す助けになるのではないかという希望を込めた全4回の連載も、これで最後となる。
ここまで、「IoT」という言葉を生んだ人物といわれるケビン・アシュトンが実は「Internet For Things」という言葉を好んでいたという逸話を紹介し、「For」と「Of」でその意味がどう違うのかについて考えた。
前者は産業や流通に使われ「モノの生産性のために」利用される技術の一群と捉えられるだろう。一方、後者の意味はもう少し曖昧で、言葉のとおりに訳すなら「モノのインターネット」。しかし、具体性をもたせるとすれば「インターネットのようなモノ」のほうが正しいのでは? という意見を述べた。
つまり、最初期にあった「モノのためのインターネット」を脱し、いま「インターネットのようなモノ(双方向性と拡張性を獲得したモノ)」のことを指して私たちは「IoTガジェット」と呼んでいるのではないかということだ。
しかし、私たちは知っている。双方向性と拡張性を獲得した電話機 ――スマートフォンを「IoTガジェット」とは呼ばないということを。
ここにある隔たりこそが、私たちに「IoT」という言葉の本当の意味を教えてくれるだろう。
「IoTガジェット」をIoTガジェットたらしめているのは何か?
連載の第3回で、「IoT」という言葉を私たちの身近に広めた立役者としてAmazonのdash buttonを紹介した。
「手に入れやすく」「分かりやすいメリットがあり」「見た目がかわいらしい」のがポイントだ。これにより、私たちはdash buttonを通じて「IoT」という分かりにくい言葉を「手に取れるモノ」として理解することができた。
では、dash buttonのようなIoTガジェットを列挙していけば、それで「IoT」というコンセプト全体を表現しうるのだろうか? 違うはずだ。それでは、その中にスマートフォンが含まれないことを説明できない。「IoTガジェット」をIoTガジェットたらしめている何かが、きっとある。
もちろん、通信方式や価格ではない。「IoT」を冠するガジェットたちに共通するもの…。これもまた、dash buttonがもたらしたと私は考えている。
「IoT」という言葉はコンセプトから「広告コピー」に
dash buttonがもたらした最も大きな功績は、「IoT」という言葉をコンセプトから「広告コピー」へと変化させたことだと私は考えている。
「IoT = Internet of Things = モノのインターネット」という、何を言っているのかよくわからないが未来を想起させるこの言葉は、Amazonがdash buttonを売るためにうってつけな広告コピーだった。
人は、「コンセプト」にはお金を払わない。しかし、それが「モノ」の形をとればお金を払える。
クラウドファンディングで資金を募っているプロジェクトや、ベンチャーキャピタルの出資先企業を見てみるといい。コンセプトだけで資金を集めている例はほとんどない。ガジェット、アプリ、サービスなど「手に取れる・体験できる」形をもって、はじめて資金が集まってくるのだ。
つまり、Amazonは「IoT」という言葉にdash buttonというモノの形を与えることで、「IoT」という言葉をコンセプトから「先進性と利便性を感じさせる広告コピー」に変え、消費を生み出したのである。
「IoTフォン」になったかもしれない