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スマートホーム(スマートハウス)の記事 2019.05.15

マッチングアプリから考える「リバタリアン・パターナリズム」とAI。ドラマシリーズ『ブラック・ミラー』が描いた現代社会への警鐘とは?

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

この2〜3年で、マッチングアプリやサイトを利用して、交際・結婚をするカップルが身近に増えてきたように思う。
以前は、「出会い系」と呼ばれ、アングラな印象を持たれがちだった「出会い」を仲介するウェブサービスだが、今やすっかり「恋愛を目的とした出会いの選択肢」の一つとして浸透しつつあるようだ。

その一方で、マッチングサービスを利用する友人たちが口を揃えて言うのが、「出会いが多すぎて、恋愛がわからなくなってきた」ということだ。

他者のプロフィールを自由に閲覧でき、好みの相手にボタン一つでアピールできる手軽さは、利用者の選択の自由度を高めてくれるが、その反面、無数の選択肢を提示することで、利用者の悩みの種となってしまう。

では、こうした課題に対し、サービス提供者側はどのような対応を取ればよいのだろうか?

そんな問いを考えるときに便利なのが「リバタリアン・パターナリズム」である。

人々がよりよく暮らせるために、選択肢を限定するということ

「リバタリアン・パターナリズム」はアメリカの経済学者、リチャード・セイラーと法学者のキャス・サンスティーの二人が2003年に提案した言葉だ。

※画像はイメージです。

「リバタリアン」は文字通り、個人の自由意思が最大限尊重されること「パターナリズム」は、個人の意思決定において、他者が「よりよい結果を生む」という正当化圧力を行使し、介入することを意味する。

一見すると矛盾しているかのように見えるこの単語だが、意味するところは、「人々の自由意志を最大限尊重した上で、行為者をよりよい生活へと誘導する」ということで、「常に拒絶の自由が与えられている」のだという。
セイラーとサンスティーは共著書となる『実践行動経済学』で以下のように述べている。

「パターナリズム」という言葉の意味を限定するために「リバタリアン」という言葉を使うときには、自由を維持していることを意味するにすぎない。そして、「自由を維持する」と言うときには、まさにその言葉通りのことを言っているのである。

(リチャード・セイラー、キャス・サンスティー 著、 遠藤 真美 訳『実践行動経済学』)

さらに、彼らは、「リバタリアン・パターナリズム」の肝となる、人々の自由意志を尊重しながら、よりよい選択肢を選べるような配慮を加えることを「ナッジ(肘でつつく)」と呼んだ。
そして、このナッジを実行するものが、「選択アーキテクト(設計者)」だ。

この「選択アーキテクト」は実際に様々な場面で存在している。
マッチングアプリを例に挙げると、ユーザーにマッチング相手の選択肢を提示するUI/UXを担当するデザイナーは「選択アーキテクト」と言える。
インターネットの発達とともに情報過多に悩まされる人々にとって、「リバタリアン・パターナリズム」は課題を解決する最善の手段のように感じられるだろう。

一方で、その定義の曖昧さや、矛盾を孕んだセンセーショナルな言い回しから、「リバタリアン・パターナリズム」に対し懐疑的な立場をとる人も少なくない。
そして、「リバタリアン・パターナリズム」に向けられる批判の一つが、「選択アーキテクト」が選択を行う個人の好悪や傾向を完全に把握できるのか、というものだ。

しかし、こうした課題の解決策を一つ、私たちは知っている。膨大なデータを蓄積しながら、その中に法則や傾向を見つけるのが得意なもの。そう、AIだ。

AIが行動を指定することで最適なマッチングが実現する

AIによる完璧なリバタリアン・パターナリズムの実現の可能性を描いた作品がNetflixで配信されているドラマシリーズ『ブラック・ミラー』シーズン4の『HANG THE DJ』というドラマだ。

『ブラック・ミラー』は、英国で制作されたSFアンソロジー・シリーズ。技術の発達と技術が暴き出す人間の業を描いたダークで風刺的なストーリーが人気を集めている。

『HANG THE DJ』で登場するのが、「コーチ」と呼ばれる端末型のAIだ。この世界では、男女の出会いは「コーチ」が全てお膳立てしてくれる。そして、「コーチ」がデータを蓄積することで、99.8%の確率で「相性ぴったり」の相手を見つけてくれるというシステムになっている。

(※ 編注:次の画像より下から、オチを含めた物語の要約が続きます)

※画像はイメージです。

利用者は以下の項目について「コーチ」に従うことになっている。

  • マッチング相手と会う場所
  • マッチング相手と過ごせる時間
  • 居住地

指定された条件以外は全てユーザーの自由意志に委ねられている。しかし、万が一「コーチ」の指示に反する行動をした場合、“世界からの追放”という厳しいペナルティが課せられるという。

今作の主人公はエイミーとフランクの二人。二人は、「コーチ」の指示で出会い、最初のデートの中で、お互いに「運命の相手」なのではないかと思うようになる。

その後、「コーチ」の指示に従い別れた二人は、他の相手と交際を重ねるが、お互いの存在が常に頭をかすめていた。

そして、再び出会った二人は、互いが「運命の相手」だと確信し、制限された交際から解放されるため、世界からの逃走を図る。

ここまで読んで、このシステムは「リバタリアン・パターナリズム」ではなく「パターナリズム」で構築されているのではないか、と思われた方も多いかと思うが、実は、「コーチ」が支配する世界は、仮想世界だというオチになっている。

つまり、現実のエイミーとフランクの相性を検証するため、仮想的に構築されたエイミーとフランクが幾度となく出会いを重ね、世界からの逃亡を図るたびに相性の良さを実証していた、ということだ。

ラストシーンでは、二人の相性度が画面に表示されたスマートフォンのような端末を手にした現実世界のエイミーとフランクが出会い、お互いの運命を確信するかのように微笑みあう。

「リバタリアン・パターナリズム」のなかに潜む厳格な「パターナリズム」

今作で描かれるマッチングアプリでは、利用者の精巧なダブル(コピー)を仮想世界に構築し、現実世界では不可能な回数の出会いと別れを繰り返させることで、趣味嗜好を完璧に把握し、選択肢を提示する、完璧な「選択アーキテクチャ(設計)」が可能となっている。

現実でも、人工知能によるよりよいマッチングを謳うサービスが出てくる中、技術が完璧な選択肢を提示してくれる未来はそう遠くないのかもしれない。

※画像はイメージです。

しかし、『HANG THE DJ』で描かれたように、一見「リバタリアン・パターナリズム」に基づいて設計されているシステムの中に、厳格な「パターナリズム」が潜んでいるかもしれない、という可能性に背筋が寒くなるような思いを抱くのは筆者だけだろうか?

高度情報化社会において、「リバタリアン・パターナリズム」は、様々な選択肢を設計するときの指針として重要な役割を果たすだろう。

だが、その「リバタリアン・パターナリズム」が何で構成されているのか、一人一人がきちんと考え続ける必要があるのかもしれない

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