介護業界の救世主として期待されているIoT
総務省統計局が平成28年9月18日に発表した統計によりますと、高齢者の人口は3,461万人で人口に占める割合はすでに27.3%、つまり4人に1人は高齢者という域にまで達しています。
これから本格的に超高齢化時代がやってきますので、将来的には3人に1人が高齢者となることは間違いないとされています。
同時に人口の減少も加速化し、2053年には1億人を切り、2065年には8,800万人にまで減少するという予測が出ています。
また、平均寿命は2015年時点で男性80.75歳、女性86.98歳であるのに対し、2065年には男性84.95歳、女性91.35歳にまで伸びると言われています。
これらのことから、高齢者は増え続ける一方で生産年齢人口が減り続けることは明らかで、介護業界においては2025年に38万人以上の人材が不足するのではないかと言われています。
こうした問題を抱える介護業界の救世主として期待されているのがIoTです。
IoTを活用した介護事例
国も介護業界も人材不足の問題には早くから危機感を抱き、問題の解決に取り組んでいます。実際にIoTが介護の現場でどのように活用されているのか、IoTによる介護事例をいくつかご紹介します。
〈エアコンで見守り〉
パナソニックエイジフリーが運営するサービス付き高齢者住宅では、2016年10月にパナソニックが商品化したIoT介護サービスであるエアコンみまもりサービスを導入しています。
各部屋に温度や湿度センサーを搭載したIoTエアコンと、生体反応を検知するドップラーセンサーを取り付け、温度・湿度・入居者の在不在および睡眠の状態を測定し、データをクラウド上に集約することで、職員は事務室のPCから一目で確認することができるというものです。
夏場なのにエアコンが付いていない、長時間不在になっている、などの異常時には画面上に警告が表示されると同時に、職員が携帯しているPHSやナースコールなどに通知が送られます。
またPCからエアコンを制御することが可能なため、これらのデータを確認して最適な室内環境を作り、熱中症や誤作動による事故などを防ぐことにも寄与します。
職員が各部屋を巡回しただけですべての状態を把握するには限界があり、また深夜の巡回によって熟睡中の入居者を起こしてしまう可能性があるなどの問題がありましたが、本サービスを開始したことで職員の負担が大幅に軽減されるとともに、異常が見られる場合は先手を打って対処できるようになったとのことです。
〈排泄を予知するシステム〉
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社が開発したDFree(ディーフリー)は、排尿センサーを搭載したウェアラブルのIoT介護デバイスで、入居者の下腹部に貼り付けた超音波センサーが膀胱内の尿の量から排泄のタイミングを測定し、たとえば「10分後に排泄する」などの通知を職員が管理するタブレットに行うことで排泄介助につなげるというものです。
排泄のタイミングは人それぞれですので、最適なタイミングというものはいくらベテラン職人でも分かりません。そのため多くは一定時間ごとにトイレ誘導などを行うか、入居者本人の意思に任せるしかありませんでした。
しかしこうしたウェアラブルIoT介護デバイスの登場によって効率よく排泄介助が行えるようになる上に、認知症の入居者などに対しても非常に有用で、おもらしなどによる職員の負担を大きく減らすことができます。
〈介護プラットフォームサービス〉
IoTビジネスの創出をサポートするZ-WorksはCarePlatformというサービスの提供を開始しています。
これは、Z-Worksが持つセンサー技術やビッグデータ、AIなどを組み合わせることによって介護現場での各問題の解決を目指すプラットフォームサービスです。
たとえば非接触のベッド見守りセンサーや人感センサーを使ってベッド上の在不在を検知し、職員のスマホに通知するシステムや、人感センサーおよび心拍センサーなどが取得した入居者の行動・バイタルデータなどの情報、温度センサーが取得した室内温度などさまざまな細かいデータを職員に通知することで効率化と最適化を目指すというものです。
このほかにも、理化学研究所はROBEAR(ロベア)と呼ばれる“人と柔らかく接しながら力仕事を行う高機能ロボット”を開発し、介護現場での実用化を目指しているなど、各分野の各企業も介護業界の現状や将来に危機感を抱き、独自の取り組みを行っています。
介護業界はIoTの参入によって大きく変わろうとしている
IoTはさまざまな形で介護業界に寄与してくれます。職員の負担を大幅に軽減してくれるだけでなく、入居者一人一人に最適なケア方法やタイミングなどが把握でき、また異常事態が発生した際、あるいは発生しそうな時に素早い対応も可能になります。
実際、東京都にある介護付き有料老人ホームでICT/IoTシステムを導入したところ、1日あたり17時間の業務効率化(職人2名分に相当)に成功したという例も報告されています。
たとえば、理化学研究所のROBEARの実用化が始まれば、こうした効率化に加えて人手不足も解消できる可能性が高くなります。
メディアなどで取り上げられるたびになにかとマイナスなイメージがついてしまいがちな介護業界ですが、IoTの参入によって大きく変わろうとしています。