神奈川県横浜市に本社を構えるリスト(横浜市中区)は、高級不動産を中心に扱うリスト サザビーズ インターナショナル リアルティをはじめ、日本国内外での不動産売買や不動産開発、戸建て住宅の建築など、あらゆる不動産事業をグループで展開する大手不動産会社だ。
グループ会社の1つ、リストプロパティーズは、リストグループが長期保有している物件の管理や運営を行う資産管理会社だ。自社物件の管理で溜まったノウハウを活かして、他社法人が所有する不動産のコンサルティングやプロパティマネジメントも手がけている。
社員はわずか10名だが、自社物件約40棟の管理や他社のPM受託、他のグループ会社に当てはまらない新規事業など、事業範囲は多岐に渡る。
そういった同社が、2020年7月29日に竣工したのが、神奈川県鎌倉市稲村ヶ崎にある物件(鎌倉市稲村ケ崎3-7-26)だ。江の島電鉄「稲村ケ崎」駅から徒歩3分に位置し、敷地面積110.94坪・延べ床面積110.28坪、温水プールやバーカウンターなどが完備された、まさしくリゾートエリアにある高級別荘だ。
『SpaceCore』が導入された高級リゾート物件
現在は社員向けの保養所として活用している。そこに導入されているのが、アクセルラボが提供するIoTプラットフォーム『SpaceCore』だ。
今回は、リストプロパティーズの事業責任者である井上和也部長に話を聞いた。高級別荘でスマートホームはどのように活用されているのだろうか。
リストプロパティーズ・井上和也部長
高級物件に『SpaceCore』が選ばれた理由
―稲村ヶ崎の物件に『SpaceCore』の導入を検討した理由は何だったのでしょうか。
稲村ヶ崎の土地は、2018年に取得しました。
どういった物件をプロデュースするかを検討していたとき、「単なる高級物件では面白くない。ITやテクノロジーを活用した仕掛けがある物件にしてはどうか」という意見があり、話題性もあるだろうと考えたことがIoT機器の導入を意識したきっかけです。
実際に、『SpaceCore』に決めたのは2019年頃です。アクセルラボの担当者と「一緒に作っていこう」と意気投合して取りかかりました。
―他社サービスとの比較はされましたか。
いくつかのサービスに問い合わせて比較しました。
アクセルラボに決めたのは、照明やカーテンの操作が1つのインタフェースにまとまっていることが大きかったですね。他だと、一元管理できないこともあるようでした。
機器の豊富さと、機器を一括したアプリ、アクセルラボはIoT機器メーカーではなく、プラットフォーマーなので、いろんなものと繋がっていく拡張性があるといったことに発展性を感じました。
―そこからどのように進めて行ったのでしょうか。
アクセルラボと対話をしながらプロジェクトを進めていきました。
例えばカーテンを自動で空くようにしたい、遠隔でお風呂を沸かす、電気やエアコンの操作など、こちらの要望を伝え、アクセルラボもサービスを「育てていく」といった姿勢で対応いただきました
他社のIoTサービスでは、既存のパッケージがあって、それに合うか合わないかという判断になるのではないでしょうか。一方、アクセルラボは柔軟にこちらの要望に対応してもらうことができましたね。
―『SpaceCore』を導入して、利用状況はどうでしょうか。
社員が保養所として使っています。また、プレスリリースを読んで「見てみたい」という反応もありましたね。何件か、当社の顧客に対して案内もしています。
ただし、まだ『SpaceCore』を設置しただけで、スマートホームが完成したわけではありません。『SpaceCore』は、シーンに合わせてパターンを設定することができます。だから、私たちがどのように使うのかこれからカスタマイズしていきましょう、という段階ですね。
IoT機器やITが不動産会社の差別化になる。
―井上部長は、自宅でスマートデバイスは使っているのでしょうか?
使ってはいませんね。
しかし、稲村ヶ崎で導入した『SpaceCore』を見ていて、外から電気やエアコンを操作でき、鍵の開閉などは便利だと感じています。案外必要な機器も少なく、簡単にできそうですね。
物件に設置されたセントラルコントローラー「NATURE」
―リストはITやテクノロジー活用に前向きですね。
会社全体として、ITやサービスの活用にはとても前向きです。人でしかできないサービスは人がやり、それ以外の単純作業などはITを積極的に活用する。そうすることで、お客様により良いものを提供できると考えています。
また、我々の顧客である富裕層がITに前向きで慣れているということも要因でしょう。富裕層はITに明るく、便利なものが好きです。IoTの環境ができることは魅力的に感じています。
―富裕層がITに明るいという話は初めて聞きました。
当社も、コロナ禍のなかで、オンラインでの海外不動産の投資セミナーを行っているのですが、高齢な投資家も問題なく参加されていました。年齢関係なく富裕層の方は便利なものを使いこなす傾向があるようですね。
他の業種を見ると、IT化の波は確実に押し寄せている一方で、不動産はまだまだアナログな部分が多い。そこに他社と差別化を図るための伸びしろを見出しています。
―『SpaceCore』に対して感じている要望や課題はありますか。
今後、IoT機器が物件の付加価値になる可能性は十分あると思っています。しかし、改善の余地があると感じる部分もあります。
当社の場合、顧客となるのは富裕層です。富裕層は面倒なものは避ける傾向にあるので、もっと『SpaceCore』も単純明快なサービスの方が良いのかもしれません。
アクセルラボに伝えているのは、家に入ったら全部の電気が点いて、出たら消える。ボタンを押したら冷暖房などが全て適切な環境になっている、といった単純な機能のものにできないかということです。
―なぜ、不動産業界ではIT化が難しいのでしょうか。
不動産業界は、売買であれば3%の手数料が利益になる世界です。現状のままでもそのビジネスが成り立つからではないでしょうか。
しかしこれからは、ITを駆使している会社や独自のノウハウがありコンサルティングができる能力が無いと選ばれなくなると思います。
そういった考えを持っている事業者はまだまだ少なく、ビジネスチャンスがあると感じています。