あらゆるものにモジュールを搭載してインターネットに接続できるようにするIoT(モノのインターネット化)。インターネットに私たちの身の回りのものが接続すると、必要なときに必要な情報がリアルタイムで取得できたりと、生活の利便性が上がります。そしてIoTはビジネスでも利用され始め、IoTを企業で活用するための各サービスも提供されるようになりました。
ECサイトの大手であるAmazonはITソリューションサービスも提供しており、クラウドサービスのAWS(Amazon Web Service)は世界中で多くの企業が導入しています。そして今回ご紹介するのが、IoTを制御・管理するときなどに利用する「AWS IoT」です。
今回は企業がIoTシステムを構築する際に利用しているAWS IoTについてその概要や理解に必要な関連用語、そして仕組みや活用事例など、幅広い観点から解説します。
▼この記事でわかる!
- AWS IoTの意味や仕組み
- AWS IoTの関連用語
- 各企業の導入事例
AWS IoTとは
AWS IoTとは、AWS経由でIoTデバイスと接続し、連携するためのサービスです。サービスの元になっているAWSはAmazon社内のビジネス課題を解決するために開発されたシステムのノウハウが活かされており、必要なときに必要な分だけコストを抑えて利用できるクラウドサービスのメリットが最大限に発揮されています。
AWSのメリットは、「インターネット経由でIoTデバイスとAWSの接続及びデータ送受信などを安全に行える」点です。
特性上、IoTデバイスには必ず端末を制御するサーバーが必要不可欠になります。そしてAWSを利用してIoTデバイスの制御を行う場合、求められるのがセキュリティを確保した状態でデータ送受信などを行うことです。
AWS IoTでは高水準のセキュリティ技術が利用できるので、インターネット上からAWS経由でIoTデバイスを制御する際も安心して操作が可能です。またそれだけでなくIoTデバイスをパソコンやスマホから操作できるようにするアプリケーション制作なども可能で、ポテンシャルの高いサービスです。
AWS IoTの関連用語を解説
ここからは、AWS IoTを理解するために必要な関連用語を、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
MQTT
「MQTT (Message Queue Telemetry Transport)」はIoTとAWS間のデータ送受信時に使われるプロトコル(インターネット上の通信の決まり)です。IT大手のIBMが開発しました。
MQTTは「軽量であり、低消費電力でデータ通信ができる」点から、IoTのデータ通信には最適なプロトコルです。例えば大規模なネットワークを構築できなくても軽量で素早くデータ通信ができるので、IoTの制御をスムーズにAWS上で行えます。
またIoTにとって、電力の大量消費は大敵です。MQTT利用時は消費電力が「HTTPS」など他プロトコルを利用するよりも少ないので、安心してIoTデバイスのデータ通信が可能です。
Zigbee
「Zigbee」とは無線通信規格の1種です。IoTとAWS間の接続設定を簡単に行えるだけでなく、一度に大量のIoTデバイスをAWSに接続することも可能になります。そしてデータ通信時の消費電力もMQTTと同じく少なくて済みます。
EnOcean
「EnOcean」もZigbeeなどと同じく無線通信規格の1つで、「エネルギーハーベスティング」という画期的な技術を採用しています。エネルギーハーベスティングでは電磁波など日常で発生するエネルギーから電力を供給でき、効率よくIoTデバイスに電力供給ができます。
EnOceanを使ったIoTデバイスを利用すれば、ユーザーはIoTデバイスの電力不足に悩まされることはほぼなくなるでしょう。
SQL
「SQL(Structure Query Language)」は、AWS上にあるIoT制御用のデータベースなどを操作するときに使うプログラミング言語です。AWSには「ルールエンジン」という、適切にIoTとAWS同士の通信を行うための機能があります。
ルールエンジンなどAWSの各機能を実行するために、SQLは利用されています。
IoTゲートウェイ
「IoTゲートウェイ」というのは、IoTからAWSにデータ通信する際の門戸となる端末のことです。通常IoTデバイスから直接AWSにデータを送信するには大量の電力が必要で、また接続が切れてしまう可能性もあります。IoTゲートウェイを通してIoTデバイスのデータをAWSに送信すれば、IoTデバイスの低消費電力化が可能です。
それだけでなく複数のIoTデバイスのデータをまとめてAWSに送れるようにして、データ通信を効率化してAWSの負担を減らす役割も担います。
今まで見てきたように、AWS IoTでは効率的に、低消費電力でデータ通信できるようにする技術が多数利用されています。
AWS IoTの仕組み
AWS IoTは、次のような仕組みになっています。
- デバイスゲートウェイ
- メッセージブローカー
- ルールエンジン
- セキュリティとアイデンティティサービス
- レジストリ・グループレジストリ
- デバイスシャドウ
- Device Shadow サービス
- デバイスプロビジョニングサービス
- カスタム認証サービス
- ジョブサービス
少し項目が多いですが、1つずつ見ていきましょう。
デバイスゲートウェイ
前述の通りIoTデバイスとAWS間の接続を取り持つ端末です。
メッセージブローカー
IoTデバイスと、AWSにインストールしているアプリケーション間のデータ通信を安全に行うために必要な仕組みです。
ルールエンジン
アプリケーションを構築するときに必要な仕組みです。SQLを利用してIoTデバイスから取得したデータを処理して、他の端末やクラウドサービスにデータを送信して連携を図ったりします。処理する際のルールはAWSを利用しているユーザー自身が定義します。
セキュリティとアイデンティティサービス
AWSの認証情報などを適切に管理して、安全にデータ通信するための仕組みです。
レジストリ・グループレジストリ
AWSと接続している各デバイスにIDを割り振る機能です。各デバイスに発行した証明書とIDを関連付けて、効率的なデバイスの管理を行うときなどに利用します。グループレジストリはレジストリをグループ化し、複数の端末をAWS上で同時に管理するための仕組みです。
デバイスシャドウ
AWSと連携している各デバイスの情報状態などを取得・保存する技術で、「JSON(「JavaScript」というプログラミング言語がベースのプログラムファイル)」が利用されます。
Device Shadow サービス
リアルタイムでAWSと接続しているデバイスの状態を同期するための仕組みです。
デバイスプロビジョニングサービス
ユーザーの需要などに応じてAWS上のデバイスをプロビジョニング(いつでも利用できるように準備する)ための機能です。
カスタム認証サービス
AWSユーザーが認証機能をカスタマイズできる仕組みです。
ジョブサービス
AWS上から各デバイスに、あらかじめ決められた操作を行うための機能です。AWSユーザーがジョブを定義した一連の操作査のことを「ジョブ」と呼びます。
このように複数の機能が連携しあって、AWS IoTが機能しています。
AWS IoTができること
AWS IoTを利用すると、次のようなことが可能になります。
- 各IoTデバイスからのデータ収集が可能になる
- 遠隔操作でファームウェアのアップデートなどが簡単になる
- AWSを介したIoTデバイス同士の連携も可能になる
各IoTデバイスからのデータ収集が可能になる
AWS IoTを利用すると、接続している各IoTデバイスのデータを収集して、AWSに保存できます。保存されたデータは加工処理などを行いデータベース化。データベースを元に分析を行い、IoTデバイスサービスを提供する上でどこの工程に問題があるかなどを可視化して改善につなげられます。
またIoTデバイスの情報データを元に、IoTデバイスの異常を感知。故障する前に対応することで、無駄なコストの増加まで防げます。
遠隔操作でファームウェアのアップデートなどが簡単になる
AWS IoTを利用すれば、遠隔操作で各IoTデバイスをAWSのアプリケーション経由で操作可能になります。そして遠隔操作で古くなったプログラムのアップデートを行ったりして、IoTサービスの品質改善が簡単になります。
IoTデバイスの遠隔操作はセキュリティ上危険視する声もあるかと思いますが、AWS IoTではセキュリティもしっかり担保されており、暗号化された通信で安全にIoTデバイスの遠隔操作が可能になります。
AWSを介したIoTデバイス同士の連携も可能になる
AWSの真骨頂は、AWSを介して各IoTデバイス同士の連携が可能になることです。例えば近隣の交通状況を自動車内センサーで取得、その後AWSを介して処理を行い最適な交通ルートを決定してそのデータをカーナビへ送信すれば、ユーザーがスムーズに自動車運転できます。
このようにAWSを介して複数のIoTデバイスを接続・連携させることで、IoTサービスを利用するユーザーの利便性が一気に高まります。
AWS IoTの活用事例
ここからはAWS IoTの活用事例を3つご紹介します。
シャープ
(画像引用元:シャープWEBサイト
https://jp.sharp/)
「目のつけどころがシャープでしょ」のフレーズでおなじみのシャープでは、長年AWSを利用しています。シャープ開発の各家電のデータ処理などを行うために、AWS IoTが利用されています。
冷蔵庫やウォーターオーブンなど、シャープの各家電に共通の通信モジュールを搭載。そしてAWS IoTに接続することで、簡単に家電ネットワーク構築が可能になりました。
これによって例えば料理のレシピをオーブンから取得。取得したデータをAWSで処理してAIの会話で消費者に伝える、といったサービス提供ができるようになりました。しかも新しいIoTサービス構築の際も、AWSをその都度契約するだけであっという間に環境構築ができる利便性も受けています。
スシロー
(画像引用元:スシローWEBサイト
https://www.akindo-sushiro.co.jp/)
大手回転ずしチェーンである「スシロー」では、アプリ導入での集客強化など、飲食業界の中でもITを積極的に導入して収益向上につなげている企業です。
スシローではAWS IoTを利用して業務効率化を目指しました。スシローでは高品質のすしを作るために商品原価率が50%と高めになっており、利益を出すために業務効率化を行いコスト削減する必要性がありました。しかし自社だけで業務効率化のシステムを構築するのは容易ではなく、人的リソースも限られていました。
そこでAWS IoTを導入して「BI(Business Integrated)」ツールのトライアルを開始。データベースを管理して分析、業務改善につなげる一連のフローをAWSを駆使して行いました。そしてAWSの他機能も次々導入し、今では高速なデータ分析・活用が可能になり、大幅な業務効率化にも成功しています。
スシローアプリのテイクアウト機能などもAWS IoTを介して提供されており、今やスシローの業務システムにAWS IoTはなくてはならない存在となっています。
大阪ガス
(画像引用元:大阪ガスWEBサイト
https://www.osakagas.co.jp/)
関西の電力やガスインフラを担う「大阪ガス」では、家庭用燃料電池「エネファーム」にAWS IoTを導入しています。
大阪ガスでは、エネファームと社内システムをどうやって接続して連携するかが課題となっていました。そこでAWS IoTの各機能を利用して、安全でありながら確実な接続が可能になりました。
またAWSの価格競争力や、アメリカなどですでに多くの導入実績をAWSが持っていたことも導入を後押ししました。今では事前にデータを解析してIoTデバイスへの問題解決に活かしたり、スタッフが手元でデータを閲覧できるようになったりと、AWS IoTの利便性を活用しながらサービスを提供しています。
AWS IoTの今後について
今回はAWS IoTの概要や用語解説、仕組みや活用事例など、幅広くご紹介してきました。
AWS IoTは低価格、しかも必要なときに必要なだけ契約できる利便性が受けています。それだけでなく高いセキュリティやIoTデバイスの遠隔操作ができるようになったりと、さまざまなメリットがあります。今後AWS IoTを利用してシステム構築を行う企業はどんどん増えていくことでしょう。
もしこの記事を見ているあなたの会社でIoTを利用したシステム構築を検討している際は、ぜひAWS IoT導入を検討してみてください。