インターネットはすでに当たり前のものになり、身の回りのものがインターネットに接続して処理を行い、私たちに利便性をもたらす「IoT(モノのインターネット化)」も一般的になりつつあります。
そんな中ビジネスでもIoTを取り入れる動きが進み、特に産業界のIoTは「IIoT」と呼ばれることがあります。ただしIIoTは産業界に特化したIoTで知名度はIoTの方が高いので、「IoTは知っているけど、IIoTについてはよく分からない」という方も多くおられるのではないでしょうか?
そこで今回はIIoTとはそもそも何か、そしてIoTとの違いや活用事例なども幅広く解説していきます。
▼この記事でわかる!
- IIoTの意味やできること
- IIoTの身近な活用事例
- IIoTとIoTの違い
IIoT(インダストリアルIoT)とは
IIoTとは「産業界に特化したIoT」を指し、「インダストリアルIoT」などと呼ばれることもあります。IIoTでは主に産業界で使われる機械や装置などの設備にモジュールを搭載してインターネットに接続できるようにすることで、業務の安全性や業務効率化などを実現できます。
IIoTにつながるIoT自体の概念と言葉は、1999年にマサチューセッツ工科大学のケビン・アシュトン氏が提唱しています。
当時はインターネットの技術も未発達で、多数の機器が同時にインターネット上でスムーズに接続するにはほど遠い時代でした。また、インターネットに関係する設備の費用も高く、IoTは一般的な概念ではありませんでした。
しかし最近ではインターネット技術の発達で複数の機器が同時に接続できるようになっており、設備にかかるコストも抑えられるようになってきました。それに伴い「Apple Watch」などを始めとしたインターネットに接続できるIoTデバイスがたくさん登場しました。そしてIoTの利便性はビジネスでも注目され始め、産業界でIIoTという用語が使われるまでに発展しました。
ちなみに現在増加するIoTデバイスへと対応するために、世界で「5G(第5世代移動体通信技術)」の整備が進みつつあります。5Gでは1キロ平方メートルあたり100万台のIoT機器を同時に接続できるスペックになっており、4Gをはるかに上回ります。今後は5Gの整備などに伴って、IoTがさらに普及していくでしょう。
IIoTとIoTの違い
IIoTは産業界でのIoTを指すので、IoTの1種とも言えます。しかしIIoTにはIoTと比較して、特に次のようなことが求められます。
- 業務に利用されるので、より接続安定性などの確実な稼働が必要
- 導入により生産性の向上が可能になる
- 機密性(必要な人員だけが使える)や可用性(使いたいときにすぐ使える)などが担保されているか
要するに一般的にIoTはインターネットがモノにつながる技術全般を指しますが、そこからプライベートな用途を除いて産業のIoT化を示すのがIIoT、といったところです。
IIoT化がもたらすメリット
IIoT化を行うと、産業界ではどのようなメリットがあるのでしょうか。
サプライチェーンの最適化が可能
生産業では、製品の素材調達から製品組み立て、消費者への受け渡しまでを1つの流れとして捉えます。この素材調達から商品者への受け渡しまでの一連の流れを「サプライチェーン」と呼びます。
ですがサプライチェーンでは余剰在庫の発生や、各工程でのトラブルなどが発生し、生産性に支障が出る場合もあります。IIoTを導入すれば、サプライチェーンをIoTで効率的に管理可能。各製品の在庫がどのくらいか正確に把握し、また各工程で問題が起こったときの解決法も簡単に見つかるようになります。
結果導入前よりサプライチェーンが適切に機能し「サプライチェーン・マネジメント(サプライチェーンの効率的な管理)」が簡単になります。
工程をIoTで管理することでミスが減り、品質向上につながる
上記で説明した通り、サプライチェーンでは複数の工程が発生します。特に製造工程では情報管理が紙ベースである場合、必要な情報が書いてある書類の取り出しなどの作業に時間がかかり、書類の見間違いなどでミスが発生。製品自体のクオリティも下がってしまうので、製造に関して悪影響が出ないように注意しなければならないところがいっぱいあります。
IIoTを導入すれば、例えば製造工程で必要な製品情報の管理は全てシステム上で行えます。これにより紙ベースの書類管理の煩雑さがなくなり、単純な人的エラーの防止にもつながります。
そして人的エラーが減少することで製品の品質も向上し、安定してクライアントに満足してもらえる製品を納品できるようになります。
作業工程にかかる時間やコストの削減が可能
IIoTでは製品製造に必要な設備の点検や「ボトルネック(サプライチェーンの足かせになっている部分)」の洗い出し及び解決など、サプライチェーンの各工程における作業を最適化します。そして最適化により、作業工程にかかる時間が削減され、生産性が向上します。
また例えば設備のメンテナンスを例に出せば、音声認識技術を利用して機械の異常音をIIoTで自動探知。いち早く現場のスタッフに伝えることで効率的なメンテナンスなどが可能になります。そして作業が効率化した分人件費などコストも削減されます。
IIoTの活用事例
ここからは、実際にIIoTがどのように活用されているか、いっしょに事例を見ていきましょう。
ヤマハ発動機株式会社
オートバイや輸送機器製造など、グローバルに業務を展開している「ヤマハ発動機」では、積極的にIIoTを推し進めている企業の1つです。IT大手の「インテル」出身者を迎え入れたりしてデジタルの改革を推し進めています。
ヤマハ発動機ではすでに「スマートファクトリー(IoTなどでデータ管理を行える工場)」実現のため産業用ロボットなどを工場内に導入していますが、業務効率化の改善などを目指して新たに各設備にセンサーを搭載し、製造に役立つ多種多様なデータを収集しています。
また製造したバイクなどにIoTモジュールを備え付け、状態管理や顧客の利用状況などを情報として現場にフィードバックする体制なども検討中で、IIoTに対して意欲的な姿勢を見せています。
このようにIIoTでは製造にかかわる設備や製造物にIoTチップを搭載することで、品質向上や顧客からの情報フィードバックなど、さまざまなメリットが受けられます。
王子ホールディングス株式会社
製紙業でも、IIoT実現に向けて動いているところが出ています。代表的なメーカーは「王子製紙」などを配下に持つ「王子ホールディングス株式会社」です。
王子ホールディングス株式会社では、一部の所有工場の建設点検にドローンを導入。空中飛行させたドローンから電気ケーブルなどを撮影して、ケーブルの劣化状況を確認してメンテナンスの必要があるかどうかを検討できるようにしました。
電気ケーブルの劣化状況はドローンに搭載されたサーモカメラの温度差異識別で判断するということで、工場の点検自動化につながる動きです。そして王子ホールディングス株式会社ではこの取り組みで点検作業の90%ほどという、大幅な経費の削減を狙っています。
王子ホールディングス株式会社を皮切りに、製紙業でも紙の製造に必要な工場の点検をIIoT導入で最適化し、コスト削減する動きが広まる可能性があります。
トヨタ自動車株式会社
「自動運転」技術などで自動車業界をリードしている「トヨタ自動車株式会社」では、機械、そして「VR(仮想現実)」も駆使した自動車開発や製造を進めています。
例えば部品の品番情報をその場で検索して確認できるシステム「品番.com」を開発中。品番.comを利用することで、部品情報が属人化され管理が非効率になっている現状を打破しようとしています。
また自動車に対する消費者のニーズ多様化に対応するために、産業向けIoTシステム「ThingWorx」を採用しました。ThingWorx導入で各自動車製造工程における問題を、VRで分かりやすく確認可能になりました。
自動車業界でもIIoTを駆使することで消費者のニーズへの素早い対応や、問題のスピーディーな解決などが簡単になります。
IIoTの課題と動向
IIoTが今後普及するのは確実ですが、まだ導入黎明期ということもなり課題も抱えています。一番の課題とはセキュリティです。
実際今回紹介したトヨタ自動車株式会社では話題になったランサムウェア、「WannaCry」への感染が北米工場で明らかになり、マルウェアやハッキングなどでIIoT化した工場がダメージを受ける可能性が顕在化しました。
しかしパソコンやスマホも、現在に至るまで常にマルウェアやハッキングのリスクを抱えていますが、技術が成熟すると共にリスク回避技術も高精度になり、いろいろな対策ができるようになっています。IIoTでも各企業で導入が進みながら、IIoTソリューションズがセキュリティ技術向上などに力を入れて次第にセキュリティが強化されていくはずです。
IIoTの今後について
今回は概要だけでなく、IoTとの違いやメリット、活用事例から課題まで幅広い簡単からIIoTをご紹介してきました。
IIoTを導入すれば、サプライチェーンの最適化から始まり各製造工程の作業時間やコスト削減など、さまざまなメリットが受けられます。実際ヤマハ発動機株式会社やトヨタ自動車株式会社など、大手企業も魅力を感じて積極的にIIoTを導入しています。
IIoTは既存の産業体制を大きく変化させるポテンシャルがあります。私たちも今後の発展が楽しみなIIoTの動向に注目していきたいですね。