5Gの基地局の仕組みはどうなる
現在、一般的な「4G」の電波は遠距離にまで届くので、基地局が離れていてもユーザーがスマホなどを使ってデータ通信できます。これは4Gの電波が「回折性(障害物などを迂回する性質)」を持っているからです。
しかし5Gの電波は4Gの電波より高い周波数で、回折性があまりありません。ですから金属の壁など、障害物があるとすぐ電波が弱くなってしまい、電波がユーザーに届かなくなってしまいます。そこで従来の基地局をより細かく分けて、電柱などユーザーの環境により近い位置で5Gのデータ通信ができるような仕組みが導入されていく予定です。
ただし、基地局を増設するには課題がいくつかあります。例えば都市部では5Gを使ってくれるユーザーは多く見込める分基地局を設ける土地の確保も大変で、増設時に各キャリアが土地を探すのにも苦労する状況です。
また、地方では土地は豊富にありますが、人口密度が高くありません。その分5Gの利用者が少なくなるので、増設しても各キャリアがきちんと採算が取れるかを懸念しています。
その他、地方では景観も重要になってきますが、5Gの基地局が乱立すると景観を損なう可能性もあります。このように5Gの基地局をしっかり機能させる仕組みを作るには、課題が山ほどあります。
日本政府は各キャリアが5G利用申請後5年以内に、「エリアカバー率(日本で5Gが使える地域が全国でどのくらいあるか)」を少なくとも50%以上にするよう条件を出しています。
そのため、5Gの基地局整備における課題を今のうちに解決しないと、エリアカバー率50%以上を達成できない危険性もあります。この状況を打破するために考え出されたのが基地局のシェアという考え方です。
5G普及は基地局シェアが鍵
基地局シェアは、電柱など5Gで通信するユーザーの近くに置いた基地局を、各キャリアで分けようという考え方です。基地局には共用アンテナを置き、各キャリアでこのアンテナを共用してユーザーにデータを送信します。
無線機など通信制御に必要な各設備は各キャリアが用意しますが、それも共用アンテナの近くにまとめて置くことでスペースを節約できます。また、各キャリアで別途基地局を置くよりも必要な土地の面積も小さくなり、維持費などメンテナンスにかかる費用も少なくなります。
ということは、その分、基地局にかかるコストも削減できるので、地方でも安心して各キャリアが基地局を提供できるようになるのです。
アンテナを共有すると電波干渉が起こるかもしれないなど、基地局をシェアすると起こるかもしれないデメリットもあります。それでも全体的にメリットの方が大きい基地局のシェアが今後5G普及の鍵になるのは間違いありません。
「東京電力パワーグリッド」とKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルネットワークでは、2019年度上期に基地局シェアの検証実験を行うと公表しました。東京電力パワーグリッドが提供した電柱に、3キャリアが用意した基地局設備を設置して基地局シェアの有用性を実験します。
基地局シェアの課題が実験で見えてくれば、そこから課題を解決しながら基地局の整備が一気に進むはずです。ドコモはこの実験に参加していませんが、基地局に関する問題は他キャリアと変わりません。今後の動きに注目したいところです。
世界でも基地局に関する市場が白熱している
世界でも、基地局に関する市場が今白熱しています。基地局メーカーにはスウェーデンに「エリクソン」、中国には「ファーウェイ」、フィンランドの「ノキア」の3社を始めとした有力企業があり、各企業が基地局の派遣をかけて争っている状況です。
そして、世界の基地局市場シェアが少ない日本でも「NEC」がサムスン、「富士通」がエリクソンと組んで5G基地局開発を行うと発表しました。大手ベンダーと組んで資源・技術を共用し、世界市場で競争しようという考えが見て取れます。
5Gの基地局が整備されるにあたって、基地局ベンダー間での競争も激しくなっていくでしょう。その中で5Gの技術がどのように進化していくのか、楽しみではありますね。