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スマートホーム(スマートハウス)の記事
2019.07.22
2019.12.20

【フィクションで探る人工知能の多様性】SFドラマ『オルタード・カーボン』で描かれる自己一貫性への葛藤を解決するのは、「分人」という新しい自己の捉え方かもしれない

記事ライター:Yoshiwo Ohfuji

10代のころ、三島由紀夫の小説をよく読んでいた。

輪廻転生を主軸においた『豊饒の海』シリーズや憧れの人に成り代わりたいという倒錯した欲望を描いた『仮面の告白』など、多感なティーンエイジャーにとって、三島が描く自我の揺らぎは、自分ごとのように感じられた。

当時、ちょうどSNS黎明期だったこともあり、私は、インターネット上での自分、学校での自分、家での自分…など、一緒に過ごす相手や状況によって変化する“私”に戸惑っていたのだ
そして、鏡を見ながら度々考えるようになった。

「私はどこにあるんだろう?」

※画像はイメージです。

画像加工技術やVRが発達し、画面の中で、なりたい自分に成り変わることができる今、その問いがこれまで以上に顕在化してきているように思う。

例えば、目を大きくし顎を小さく見せてくれる写真加工アプリを使って撮影した画像をSNSにあげたり、アニメのキャラクターやペットの写真を自分のアイコンとして使ったりするという経験は多くの人にあるだろう。

SNSで交流する人が加工した自撮り写真やアバターの姿で自分をとらえる時、私たちの振る舞いは少なからず変化するだろう。

では、“私”というものを身体と心の二元的な存在として捉えられるとしたら、サイバー空間において、姿かたちを変えながらも私が“私”であり続けることなんてできるのだろうか?

高度な技術によって、精神がデジタル化する世界

NetflixオリジナルのSFドラマシリーズ『オルタード・カーボン』では、人間の「肉体」と「精神」を分離する技術が登場する。
『オルタード・カーボン』はイギリスのSF作家、リチャード・モーガンが2002年に発表した同名小説を原作としており、この作品でモーガンは、2004年にフィリップ・K・ディック賞を受賞した。
SFファンの間でも高い評価を得るドラマ版は、2018年にシリーズ1が配信され、2019年後半にはシーズン2の配信が決定している。

『オルタード・カーボン』の世界では、人工知能技術や高度な計算能力によって生まれた「Digital Human Freight(DHF)」という技術によって、人間の精神がデジタル化し、「スタック」と呼ばれる記録装置に転送される。そして、肉体の寿命が尽きても「スリーヴ」と呼ばれる代替の肉体にスタックを移し変えることで事実上永遠の命が約束されているという設定だ。
ここで、あらすじを簡単に紹介する。

<あらすじ>

犯罪者としてスリーヴを奪われ長い眠りについていたタケシ・コヴァッチは大富豪、バンクロフトの依頼によって新たな体でよみがえることになった。
一度殺されたバンクロフトは、スタックのバックアップによって再び蘇ったものの、死の前後の記憶を失い、警察による“自殺”という判断に納得できないでいた。事件の真相を知るために、彼は、軍隊で特殊な訓練を受け高い能力を持つタケシを目覚めさせ、自由を与える代わりに、自分の死の真相を突き止めることを依頼する。

※画像はイメージです。

今作で描かれるのが、自己の一貫性に対する人々の葛藤だ。殺害(自殺)の原因や理由を追求するバンクロフトや全く違う人間の姿で目覚め、戸惑うタケシの姿はもちろん、スタック(デジタル化された精神)と魂を別物として扱い、スリーヴ(肉体)の移し替えを禁じる教義を持つ宗教なども登場し、技術の発達の先でも、私たちと同じように人々が自我の在りどころに悩む様子がうかがい知ることができる。

高度に技術が発達した架空の未来の中でも、“私”という存在とうまく向き合うことは難しいのだ。

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“私”を象っていく試み

“私”を他者との関係の中から少しずつ象っていくという試み

※画像はイメージです。

“私”を取り巻く悩ましい状況において、1つの提案を提示したのが、小説家、平野啓一郎による新書『私とは何か――「個人」から「分人」へ』だ。

分人とは対人関係ごとの様々な自分のことである。恋人との分人、両親との分人、職場での分人、趣味の仲間との分人、……それらは必ずしも同じではない。分人は、相手との反復的なコミニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆく、パターンとしての人格である。必ずしも直接会う人だけでなく、ネットでのみ交流する人も含まれるし、小説や音楽といった芸術、自然の風景など、人間以外の対象や環境も分人化を促す要因となり得る。
平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ

今作で提案される「分人」は、自分自身を、単一単調な「個人」としてではなく、状況や共に過ごす環境によって様々に変化する存在と捉え、その全ての自分がありのままの自分である、という考え方

そしてこの考え方において、人々の個性というものは、唯一普遍のものではなく、この分人の構成比率によって変化していく。
つまり、「分人」とは、自分自身というものを、内面から描かれるのではなく、他者との関係の中から少しずつ象られる存在として捉え直そうという試みとも言えるだろう。

さらに、平野は、自身の作品、『ドーン』で描いた「可塑整形」という特殊な物質によって一人の人間が複数の顔を持てるようになる技術を引き合いに出し、技術によって、外見を好きに変えられるようになる時代における、「分人」と「個人」のあり方を以下のように分析している。

人間は、放っておけば、対人関係ごとに別々の分人になっていく。しかし、その反動として「個人」という整数的な単位に統合しようとする力も働く。現実的には、私たちは、その2つのレイヤー(層)を往復しながら生きることになるだろう。
平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ』

※画像はイメージです。

技術が発達する中で“私”という存在の複雑さが、目に見える形で私たちの前に立ちはだかったり、さらにはより複雑化していくかもしれない。

そうした中で、改めて自分自身と言う存在の在りようを考え、向き合っていく行為は以前にも増して重要になっていくかもしれない。

この問いは簡単に答えが出るものでは無いかもしれないが、「分人」という新しい自分の捉え方は、そんな難しい問いに折り合いをつける手助けになるだろう。

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