2022年、電気自動車メーカー「テスラ」や民間ロケット企業「スペースX」のCEOとして知られるイーロン・マスク氏が、SNSのTwitterを買収したというニュースが世界中を駆け巡りました。
買収によってTwitterはどのように変化していくのでしょうか。マスク氏がTwitterを買収した背景や経緯、その後の展開について解説します。
テスラのイーロン・マスクがTwitterを買収!
2022年10月27日、アメリカの実業家イーロン・マスク氏が、米SNS大手のTwitterを買収したというニュースが、世界に驚きを与えました。「テスラ」や「スペースX」のCEOとして知られるイーロン・マスクは、なぜTwitterを買収したのでしょうか。
そもそもイーロン・マスクとは
1971年、南アフリカで生まれたマスク氏は、18歳のときに母親の故郷であるカナダに移住します。その後、カナダとアメリカの大学で学生生活を営みますが、スタンフォード大学の大学院に進学後、わずか2日で退学。オンラインコンテンツ会社を起業し、ITブームの到来とともに、順調に業績を上げていきました。
同社の株を売却することで巨額の資産を手に入れたマスク氏は、売却益をもとにさまざまな方面へ事業を広げていきました。2002年には宇宙開発企業「スペースX」を起業、2009年には自動車メーカー「テスラ」のCEOに就任するなど、いまでは世界で一、二を争う富豪として知られています。
イーロン・マスクとTwitter
Twitterはヘイトを助長する投稿を削除したり、問題投稿を繰り返す特定ユーザーのアカウントを凍結したりといった措置を、積極的に推進していました。象徴的なのは2021年1月、「暴力行為を扇動するおそれがある」として、当時の米トランプ大統領のアカウントを永久凍結したことです。
プラットフォームの健全化を目指すTwitterのこういった姿勢が称賛される一方、「表現の自由を侵害している」という主張も各所で展開されていました。
Twitterを買収したマスク氏は、まさに後者の思想を強く持った経営者でした。マスク氏は2022年3月にTwitterで「言論の自由は民主主義に欠かせないが、Twitterはこの原則を忠実に守っているだろうか?」というアンケートを実施しています。
200万人が投票を行い、70%以上がノーと回答しました。
マスク氏はその後もTwitterのサービスに関する投稿を何度も行うなど、同社に高い関心を持つ様子を示していました。
買収と大規模な改革
2022年4月にマスク氏はTwitterの株式を大量取得し、10月27日に買収が完了しました。
マスク氏は10月31日にTwitterのCEOに就任すると、9人の取締役を全員解任。11月4日には全社員の半数である約3,700人にリストラを宣告するなど、大規模な人員整理を実行しました。
その後も残った社員に対して長時間の残業を覚悟するようメッセージを発表するなど、急激な改革姿勢は多くのメディアで賛否両論を巻き起こしています。
Twitterが買収された背景
マスク氏がTwitterを買収した背景は、メディアでさまざまな憶測が流れています。真実を知るのはマスク氏だけですが、Twitterでの過去の発言から、サービス内容に対して不満を持っていたことが推測できます。
マスク氏の発言や買収後の行動から、彼がなぜTwitterを買収し、何をしようとしているのか考察してみましょう。
アルゴリズムの公開
マスク氏は、Twitterのアルゴリズムをオープンソース※化して、透明性を高めたいという趣旨の発言を過去にしています。マスク氏はTwitterを自由な言論が行き交う場にしたい思いが強く、アルゴリズムをオープンにすることで権威が介入する余地を減らす狙いがあるようです。
※注=プログラムのソースコードを無償で公開すること。
Twitterの創業者であるジャック・ドーシー氏も「Twitterのアルゴリズムについての選択権はあらゆる人に開かれているべきだ」という趣旨の発言をしています。
また、Twitterでマスク氏が「Twitterのアルゴリズムをオープンソース化すべきか?」というアンケートを実施したところ、80%以上がYesと回答するなど、ユーザーからの期待も高いことがうかがえます。
広告依存体制からの脱却
買収前のTwitter社は売上の約9割が広告収入とされており、広告の確保が同社の生命線になっています。マスク氏はこのような広告モデルではなく、サブスクリプション(月額課金制度)などの有料オプションによって、収益力を強化したいという思いを持っているようです。
一部の国で導入されていたサブスクオプション「Twitter blue(ツイッターブルー)」を、2022年12月に正式提供を開始することが発表されました。日本でも2023年1月にサービスが開始され、多くのメディアで取り上げられています。
新機能の追加
Twitter blueでは、新機能としてツイートの編集機能が設置されることになりました。
買収以前にマスク氏はTwitterで「Twitterに編集ボタンは必要か?」というアンケートを実施したことがありました。結果はイエスが70%以上を占め、同機能を要望するユーザーの多さがあらためて示されました。
編集機能の新設は、上記のアンケートの結果を反映した形ともとれます。マスク氏はほかにも長文投稿や検索機能の改良など、ユーザーのニーズを組んだ諸機能の導入を示唆しています。
Twitterが買収されるまでの流れ
マスク氏によるTwitterの買収は、スムーズには進みませんでした。マスク氏が買収を提案してから買収が完了するまで、Twitterとの間で行われた駆け引きを時系列で見ていきましょう。
突然Twitter株式の取得を表明
2022年4月4日、持ち株比率が5%になったときに報告する大量保有報告書が公開され、マスク氏がTwitterの株式を9.2%取得し、筆頭株主となったことが明らかになりました。
TwitterのCEOのアグラワル氏は「取締役会に大歓迎する!」とツイートするなど、マスク氏を迎え入れる姿勢を見せます。
しかしマスク氏は取締役就任の要請を辞退し、Twitterを1株54.20ドルで買収すると提案したことが報道され、目的が敵対的買収であることが明確になります。
両者で協議が行われた結果、4月25日にマスク氏がTwitterを約440億ドルで買収する形で合意に至ったと発表されました。
まさかの買収撤回が波紋
ところがマスク氏は、5月に買収の保留を表明しました。理由は偽アカウントが当初の予想より多いと推測し、その実態を調べる必要がある、ということでした。
結果、マスク氏はスパムアカウント等の多さを理由に、7月に買収提案の撤回を決定します。これに対して、今度はTwitter側が買収解除を不当として裁判所に提訴を行う事態となりました。
泥沼裁判の末、買収完了
10月4日、マスク氏は一転してTwitterを当初の購入価格で買い取ることを再提案します。
法廷闘争で譲歩することが少ないマスク氏の決断は、少なくないメディアから驚きをもって受け止められました。Twitterは10月25日にマスク氏の買収提案の受け入れを発表し、10月27日に買収が完了、同時にTwitterは上場廃止されした。
最終的な買収総額は440億ドル(約6兆4,000億円)にのぼったといわれており、すべてマスク氏の個人資産でまかなわれています。
Twitterの課題は?今後のTwitterはどうなる?
マスク氏の買収によってTwitterはどのように変わるのでしょうか。Twitterが抱えている問題点や、マスク氏体制下での懸念点などを紹介します。
Twitterのシェアは拡大するか?
日本のTwitterユーザー数は約6,000万人と、InstagramやFacebookなどの競合サービスを大きく上回るシェアを誇っています。しかし、世界的な視点で見ると、TwitterはSNS界で苦戦を強いられているというのが実情です。
Twitterのユーザー数は全世界で4億人以上にのぼりますが、Facebookの約29億人、Instagramの約14億人と比べると、やや寂しい数字になっています(2022年1月時点。参考「Starista」)。新機能の追加や収益性の改善によって、他サービスへいかに対抗していくか、マスク氏の経営手腕に注目が集まっています。
言論の自由とヘイトスピーチ
マスク氏の信条である「自由な言論」は、裏を返せば「チェック機構が機能しにくくなる」という問題があります。
2022年12月12日、Twitterは「サービスに対する安全性や製品開発について助言するTrust & Safety協議会を解散した」と発表しました。Trust & Safety協議会はヘイトスピーチや児童労働、自殺・自傷などのコンテンツにアドバイスをする役目を果たしていました。
Trust & Safety協議会の解散についてTwitterは、外部の意見を取り入れる仕組みを再検討するため、とメディアの取材に回答しています。しかし、ヘイトスピーチへどのような対処をするのか、具体的なプランは明確に示されていません。
マスク氏は、Twitterの新CEOを探している!?
マスク氏は12月19日に、Twitterの利用者へ「TwitterのCEOを辞任すべきか」というアンケートを実施しました。
1,750万件以上の投票が行われ、辞任すべきという回答が57.5%と過半数を占める結果となりました。
結果を受けてマスク氏は「自分の後任が決定次第、CEOを退任する。退任後はソフトウェアとサーバーのチームの運営に専念する」というツイートを投稿しています。12月20日には米CNBCテレビが、新しくTwitterのCEOに就任できる人物をマスク氏が探していると報道するなど、多くのメディアが取り上げる騒ぎとなりました。
マスク氏の真意はさまざまな推測がされていますが、「辞任後も影響力を保持し続けるのでは」という見方も根強く、先行きは不透明です。